観光立国ショーケース都市「釧路」から世界へチャレンジ - インバウンド旅行客向け YouTube 動画で感動をうみだす -

陳内 裕樹 2019年7月

訪日外国人旅行客数はハイペースで増加を続けています。2008 年には 835 万人だった訪日外国人旅行客は、10 年後の 2018 年には約 3.7 倍の 3,119 万人まで増加(*1)。この流れを促進する取り組みの 1 つとして観光庁が計画したのが、「観光立国ショーケース」です。これは訪日外国人旅行者を地方へ誘客するモデル都市をつくる計画で、2016 年 1 月に北海道釧路市、石川県金沢市、長崎県長崎市の 3 都市が選定されました。

選定後、釧路市は誘客強化のためさまざまなプロモーションを実施しましたが、「モデル都市として海外の注目を集める」というミッションは想定以上に困難でした。そこで新たな手法を模索しようと、2018 年に初のデジタル広告となる YouTube 動画広告に挑戦したところ、当初目的としていた海外からの注目にとどまらず国内でも大いに話題を集めました。

メディアにも取り上げられ、国内外の注目を集めた動画はどのようにつくられたのでしょう。初のデジタル広告導入から配信までのストーリーをご紹介します。 

初のデジタル広告に踏み切った背景とは

ショーケース都市となった釧路市では、訪日外国人誘客強化を掲げたプロモーションを開始したものの、ポスターやイベントなど従来型の手法では海外に対する効果的なプロモーションとはなりませんでした。

そんな中、釧路市の蝦名大也市長は、観光立国ショーケース サミットで Google の基調講演を聴講。高速で進化するデジタル マーケティングの最新事情を体感したことで、「新しいことに挑戦してこそ、ショーケース都市」との認識が強まり、Google と協議を重ねながらデジタル マーケティングへの足がかりを固めていきました。

なぜ、YouTube 動画広告だったのか

デジタル広告にはさまざまな選択肢がありますが、今回釧路市が YouTube 動画広告に注力した理由は、プロモーションのターゲットが海外に住む外国人旅行者ということがあります。動画なら、言語の壁を超え、画像のみで釧路の魅力を伝えられるからです。また、YouTube のプラットフォームを活用することで、釧路から世界中の視聴ユーザーに向け、簡単かつ効率よくメッセージを配信することが可能になります。

なお、それまで釧路市には公式の YouTube 動画チャンネルがありませんでした。当時、「釧路」で YouTube 検索をすると、「ほろびゆく街」など非公式のネガティブな動画が表示され、これらが海外から多くのアクセスを集めていると釧路市議会で問題視されたこともあります。このような背景もあり、主体的に全世界に発信できる釧路市の公式 YouTube 動画を制作することを決定しました。

人々を惹きつける動画制作

最初のアクションは目標の明確化です。今回の目標は、膨大に存在する海外からの潜在的な個人旅行客というターゲットに釧路の魅力を余すところなく届けること。そして「行ってみたい」と感じてもらうことです。

これをどのように実現すればよいのでしょうか?

釧路市にとっては初のデジタル広告、そして動画制作となることから、プロジェクトチームはまず他の自治体の成功事例を学ぶところから始めました。世界で話題となり共感を呼んでいる自治体動画の共通点について分析し、釧路の魅力と照らし合わせながら、目標達成に必要な要素を以下のとおり洗い出していきました。

・海外向け動画制作の実績が豊富なクリエイターの選出
・外国人に響く釧路の魅力、コンテンツの選定
・共感型で、自分が旅をしている気持ちになれる旅人視点の動画
・ 8K 高画質で全世界に発信できる字幕音声なしの映像撮影

実際の制作段階で、特に工夫したのは、地元の視点より海外旅行者の視点を尊重することでした。地元の人にとっては日常的でも、海外旅行者にとってはエキゾチックで心惹かれる風景もあります。その一例が、道端にたたずむ地蔵尊や飾らない雰囲気の地元居酒屋などです。プロジェクトチームと映像クリエイターがロケ地を決定する会議では、このような旅人視点を重視しました。もちろん、「夕日の街釧路」など釧路市が見所と考えている場面も盛り込み、字幕音声を入れず映像のみで視聴者を惹きつける形式の 8K 高画質動画を完成させました。

風評被害に負けることなく釧路の美しさを正しく発信

動画配信予定の直前、北海道胆振東部地震が発生しました。震源地は釧路から遠いため、実際には影響はなかったものの、北海道内の災害ということで風評被害がありました。このため、道内での地震直後にプロモーション動画を配信することへの懸念もありましたが、熟考した結果、今の釧路の正しい姿を配信することが地域の活性化、ひいては北海道の元気につながるという結論に至り、予定通り広告配信を実施しました。

配信対象はアメリカ、台湾、香港、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、フランスの 8 ヶ国です。配信からわずか半月で視聴数は 500 万回を突破し、1 万以上の「いいね(Like!)」を獲得しました。さらに「移住したい」「素晴らしい動画をありがとう」「悩んでいたけれど釧路に進学を決めた」等、海外のみならず国内からも動画を絶賛するコメントが 680 件以上寄せられました。

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口コミや拡散により動画への関心が高まり、数多くの新聞やネットメディアで取り上げられました。さらに「動画の質」という点でも高く評価され、航空会社の機内ビデオや全国の家電量販店のデモ画像にも採用されるという、想定外の嬉しい成果も伴いました。

今後の展望とキャンペーンの振り返り

今回の成功を受け、釧路市は第 2 回目の動画制作を決定。初回の動画広告配信データを解析したインサイトを元に、効果的な切り口について新たな戦略を検討しています。

この取り組みを振り返って、釧路市産業振興部観光振興監の菅野隆博氏は以下のように語ります。

「YouTube での動画配信は、市として初めての試みだったため、予算を獲得できるかという懸念もありました。しかし、これまでのオフラインプロモーションだけでは、団体旅行から個人旅行へと変化する旅行者の多様なニーズに対応できないことから、関係者内で協議を重ね、一定の予算を確保することができました。

動画配信にあたっては、果たしてどの程度の視聴数を獲得できるか未知数であり、不安もありました。 2018 年 10 月に配信を予定していたものの、直前の 9 月 6 日に『北海道胆振東部地震』が発生し、一時は配信を躊躇しましたが地震発生後の 10 日後である 9 月 17 日に早めることを決めました。公開から 1 か月後には約 700 万回の視聴数を集め、想像を超える人気に正直驚いています。

今回の動画はもともと海外に向けたものでしたが、国内においても反響は大きく、現在も多くの問い合わせなどを頂いています。観光立国ショーケースの選定都市として、この結果を国に報告すると同時に、冬の動画配信に向けて、現在準備を進めているところです」

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