タクシー広告も画面の先へ──オンラインとオフラインの垣根を超えたデジタル広告配信とは

岡部 沙友里 / 2020年5月 / プログラマティック, 自動車

2018 年 Google が日本の EC 利用者 1 万人に行った独自調査では、これまでの一般的な購買決定プロセスである「ジャーニー型消費行動」だけでは説明がつかない、突発的な購買行動が増えてきていることが明らかになりました。そこで Google では、こうした行動を「パルス型消費行動」と定義づけました。

実際にパルス型の消費行動をする人々は、たとえば日々の生活の中で、なんとなく見かけた SNS の書き込みや商品画像をきっかけに瞬間的に購買意欲が刺激され、──たとえそれが未知の商品であっても──そのまま一気に利用登録から購入までスマホで完結します。

消費行動の変化と従来のメディアの枠組みを超えた広告展開

そのきっかけとなる刺激は、スマホの中だけには限らず、テレビや街中、電車の中で見かける情報も含まれるでしょう。現在では多くの人がスマホを手にしながらテレビを視聴し、電車の中でも同様に、気になった広告や情報をスマホですぐに検索して、そのまま購買にまで至る人も少なくないのです。

従来メディアの広告出稿の方法にも変化が起きています。テレビ広告を例にとると、コネクテッドテレビ(スマートテレビ)化が進む米国ではプログラマティックな広告配信が進んでいます。コネクテッドテレビ向けの広告配信のうち、2019 年には 50.6% がプログラマティック配信となり、2021 年には 59.4% にまで拡大すると言われています。(*1)

日本国内でも、従来メディアの枠組みを超え、デジタルテクノロジーを駆使した広告展開が広がっています。2019 年は、デジタルサイネージ化が進む OOH (Out of home、屋外)広告において、Google が提供する広告配信システム「ディスプレイ&ビデオ 360(DV360)」と「Google アド マネージャー」が活用され、都内の屋外、主要駅のデジタルサイネージなどで、合計 274 面のプログラマティックな取引と配信の実証実験が行われました。(*2)このような取り組みを通じて、さまざまな人との接点に向け、プログラマティックでダイナミック、かつ容易な出稿ができるようになってきています。

そこで今回は DV360 を使った最新事例「タクシー広告」のプログラマティック取引を紹介します。

「Tokyo Prime」が推進するタクシー広告のデジタル化

今や都心では当たり前になったタクシー車内のデジタルサイネージ広告ですが、その発展と普及に大きく貢献したのが、「Tokyo Prime」(*3)です。東京を含む全国主要 10 都市を走る約 30,000 台のタクシーに設置しているサイネージ端末に動画広告を配信できる、日本最大のタクシー・サイネージネットワーク(*4)です。

もともとタクシーは、1 人もしくは少人数が “車内”というプライベートな空間に一定時間滞在し、しかも利用者層は、例えば、ビジネスマン、小さい子供をもつ親といった特定セグメントが多い(*5)です。したがってタクシー広告は、それらの人々へ密度の高い訴求が可能な、交通広告の中でもプレミアムなメディアになるポテンシャルがあったのです。

従来のタクシー車内広告と言えば、窓や座席背面にステッカーを貼り付けたり、あるいはリーフレットを設置したりしていました。リーフレットは実際に手にとって持ち帰ってもらえることが強みで、ドライバーによるサンプリングなどと合わせて、ほかの交通広告にない濃い接触ができることが特徴ですが、以前は生活者のセンシティブな悩みに訴えかける商材の広告が多く、大手企業のブランド広告はあまり入稿がありませんでした。

また、都心のタクシー利用者の 1 回の平均乗車時間は 18 分で、繰り返し乗車するのが特徴(*6)とされていますが、それに対し物理的な制作物と貼り替えや差し替えの作業が必要なステッカーやリーフレットは、最低掲出期間が 1 カ月から 3 カ月なので、利用者は同じ広告を何度も見なくてはならず、限られた空間と時間を有効活用できていませんでした。

そこで Tokyo Prime は厳しい広告掲載ポリシーを採用し、都心での利用者に、タクシー乗車中のリラックス空間を壊さない「プレミアム動画広告」を配信することで、タクシーの乗車体験の質をあげ、その企業のブランドを深く浸透させることを目指しました。またタクシーの後部座席に設置したサイネージ端末で再生する動画広告をオンライン入稿で配信できる仕組みも実現しました。

デジタル広告にシフトしていた企業やブランドにとっては、オフラインのオールドメディアであった「タクシー広告」。ところが最近ではデジタル化を果たし、プログラマティックな出稿が可能になったので、今、大きく注目を集めています。

Tokyo Prime と Google Display & Video 360(DV360)

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Tokyo Prime では、提携タクシー搭載の最新型デジタルサイネージに、DV360 からプログラマティックに広告を配信できます。2020 年 1 月時点で、月間延べリーチ人数は 1,800 万人を超えています。

タクシー広告というと、今まではオフラインメディアのイメージでしたが、他の DV360 で配信したネット広告と同じく、視聴開始数、CPM(インプレッション単価)、メディア費用などの配信結果をリアルタイムにレポートできます。

また再生中は、画面下部にある「詳しくはこちら」ボタンをタップすると、動画がいったん止まり、商品やサービスの URL に飛ぶ二次元コード、あるいは静止画のどちらかを表示できます。もちろん、ボタンのクリック数、CTR(クリック率)、CPC(クリック単価) もリアルタイムで確認できます。YouTube 動画広告用に制作した動画を、PC やスマホといった配信面の垣根を超えてタクシー画面にも配信可能で、プログラマティックにプロモーションを管理できる点も特徴です。

今までデジタル広告というと、パソコンやスマホ上のネット広告のイメージでしたが、今や既存の広告メディアに対しても、プログラマティックなプロモーション管理ができるようになってきました。これにより、従来の広告出稿や効果測定しかできないと思われていた広告メディアでも、配信コントロールが細かくできたり、リアルタイム計測ができたりといったオンラインの強みを融合でき、デジタルが新しい価値を付加していく大きな流れとなっています。

エンワールド・ジャパンと Tokyo Prime with DV360

エンワールド・ジャパン株式会社では事業の拡大に伴い、新たなチャネルでの認知拡大を狙うブランディング広告を実施することになりました。広告配信先を検討するにあたり、配信管理や配信結果を統合的に管理できるプラットフォームである DV360 を含む Google のソリューションを採用。YouTube 広告 や「Google ディスプレイ ネットワーク」に動画広告キャンペーンを実施しました。さらにビジネスパーソンが多く利用する Tokyo Prime のタクシー広告を出稿しました。

オーディエンスの行動特性に合わせ、曜日指定で平日のみ出稿することにしました。また、男女それぞれに広告クリエイティブを使い分け、意図的にユーザーのモーメントをつかむ工夫をしました。

エンワールド・ジャパンの篠原主税氏(Marketing director)は次のように話します。 

「タクシー広告はビジネスパーソンとの親和性が高く、交通広告の中でもダイレクトに訴求できる数少ないメディアでした。効果計測のために実施したブランドリフト調査での結果だけでなく、実際に目にしたユーザーからもタクシー広告が好印象だったという声も多く、新規登録者増加に寄与したことを実感しています。今後はクリエイティブや計測内容を精査しながら、継続的に実施していきたいです」

そのほか、さまざまな企業が DV360 を活用してタクシー広告へ出稿しています。

パナソニック株式会社では、空気清浄機「ナノイーX」を訴求しました。

同社の清水孝志氏(コンシューマーマーケティングジャパン本部 コミュニケーション部)は、「生活者が花粉やカビに敏感になる時期というモーメントへのアプローチには、効果的なコミュニケーションの接点をいかに効率的に活用できるかが重要だと考えていました。タクシー広告は今後も計測結果を確認しながら展開を考えていきたいと思っています」とコメントしています。

また、Netflix や VAIO も同様にタクシー広告へ出稿しています。

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スマホの普及により、人々は常にオンラインのまま、オフラインの世界を行き来するようになりました。かたやデジタルトランスフォーメーションが進み、従来のメディアにもデジタル化の波が押し寄せています。そのような中で、企業の広告配信もオンライン・オフラインの垣根なく統合的に取り組み、消費者のモーメントをつかむ必要があります。

広告主が効率的にメディアプランニングでき、消費者の行動動線に合わせて、オンライン・オフラインの垣根なく広告配信できるように、今後もプラットフォームの改善とパートナーシップの拡大に取り組んでいきます。

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