コロナ禍での社会変容を 4 段階で分析──4 月以降の生活者の意識と行動変化を追いかける

国内における新型コロナウイルス感染症の拡大により、生活者の意識や行動はどのように変化したのでしょうか。これらの動きを理解するため、Google コンシューマーマーケットインサイトチームでは、調査会社インテージとの調査プロジェクトを立ち上げ、現在まで継続して週次意識調査(*1)を実施しています。時々刻々と変化する状況での、新型コロナウイルス感染症に対する不安の程度、生活・暮らしに対するイメージや気持ちの変化、また、働き方、楽しみ方、買い物、情報探索などに関連する行動の変容をたどりました。

図:アンケートで 聞いた生活者の気持ち

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緊急事態宣言の発令直後となる 4 月 11 日からの社会状況の変遷を振り返り、人々の意識と行動の変化の軌跡、また今後の展望について連載を通して紹介します。

最初に 4 月 11 日から 6 月 12 日までの 2 カ月間の調査結果からわかったことは、生活者の意識と行動は、4 段階にわたる状況の進展の中で変化したということです。その 4 段階を「急変期」「静粛期」「緊張期」「自制期」として、それぞれ細かく見ていきましょう。

急変期:この様な状況下でも前向きな気持ちを持つ人はより積極的に環境変化に対応

まず「急変期」と呼んでいるのが、緊急事態宣言発令直後の 2 週間(4 月 11 日〜 4 月 24 日)です。新型コロナウイルス感染症に対する不安がピークに達していた時期であり、生活者の「恐ろしいと思う」「嫌だと思う」「絶望している」などの気持ちが強まりました。外出時間も第 1 週(4 月 11 日〜 4 月 17 日)から第 2 週(4 月 18 日〜 4 月 24 日)にかけて短くなっています。

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この期間には、日用品のマスクやハンドソープ、消毒液が店頭で常に品薄になるなど、在庫状況に不満を持つ人、買い物時の感染に対する不安を持つ人が続出しました。生活における基本的な生理的欲求、安全欲求が満たされない状況では、ストレスと不安が上昇するのは言うまでもありません。

図:買い物での困りごと(複数選択)

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しかし、じっと耐える状態だけではないこともわかりました。「充実させたい」「前より良くしたい」のような、前向きな気持ちも高まっていたのです。

人々や企業はストレスを感じる中でも、余暇や仕事を円滑に行うための工夫に取り組んでいました。仕事ではテレワークを実施したり、プライベートでは動画配信サービスを楽しんだり、家で運動をしてみたりと、デジタルを活用していたのです。友人や家族、知人とはメールやメッセージを介してコミュニケーションをとったり、各種 SNS を積極的に利用したりと、互いを支え合う行動も顕著でした。

特に、アンケート回答者の約半数にあたる「前向きな気持ちを持つ人たち(*2)」は、余暇時間の過ごし方において、より能動的にオンラインを導入していました。生活環境の変化に対応し先立って新しいオンラインサービスを試してみる姿勢は、暮らし全般に対する前向きさと無関係ではないようです。

図:働き方について(複数選択)

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図:前向きな気持ちを持つ人の余暇の過ごし方・楽しみ方(複数選択)

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急変期は「役立てたい」「助け合いたい」という気持ちが調査期間中もっとも強かった時期でもあります。緊迫しつつも、「みんなで危機を乗り越える」といった連帯意識の高まりが急速な行動変容を後押ししていた時期だと言えます。

静粛期:新しい過ごし方を試す、「これから」の土台を形成

次にやってきたのが「静粛期」で、ゴールデンウィークを含めた 2 週間(4 月 25 日〜 5 月 8 日)です。2020 年のゴールデンウィークは自宅で過ごす「STAY HOME週間」でした。1 日あたりの新規感染者数が急変期に比べて多少落ち着いたことや、外出することによる感染不安が減少したことで、弱気な気持ちも収まってきました。

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今年のゴールデンウィークには、例年のような過ごし方ができなくなった代わりに、これまでにないほどオンラインの、特に映像を通じたコミュニケーションが増えました。「オンライン帰省」や「オンライン飲み」など、新しいコミュニケーション様式が浸透していたのです。「オンライン飲み」に関しては、すでに 3 月末ごろから検索量が急増していることも Google 検索トレンドの分析記事で紹介しています。

図:余暇の過ごし方・楽しみ方(複数選択)

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国内ではこれまでなかなか日常的に使用されなかったビデオ通話が、コロナ禍によって広まったのは偶然ではないでしょう。ここ数年、セルフィー、SNSなどの利用が活発になり、生活者が自分の姿を画面に映す、画面の向こうの相手とインタラクションを交わすといったことに慣れてきたからこそだと思われます。その可能性に気付いたことは、物理的な対面を前提としていた医療や教育、ビジネスなどのリモート化に対する気持ちのハードルを下げ、日常でのコミュニケーションと関連事業の変革を促すことでしょう。

余暇の娯楽としては、動画配信サービスやスマートフォンのゲームが伸びています。注目は、実店舗でできないウインドウショッピングをネットやアプリで楽しむスタイルを求める人が多くなったことです。バーチャルな買い物体験には、店員を気にしなくてもいい、普段は入りづらいお店やブランドも気軽に検討できる、買わずにお店を出ても気まずさがないなどの利点があります。オンライン上での買い物の拡大は、バタフライ・サーキットでも紹介しているように、生活者の買い物行動のあり方自体も変えています。

図:余暇の過ごし方・楽しみ方(複数選択)

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静粛期の特筆すべき点は食事の変化です。ほぼ外での食事ができない状況で利用が増えたのが、近所のお店からのテイクアウトでした。普段は日中に近所の街を出歩くことがなかったような人でも、散歩をしながら、新しくお店を発見した人が多かったのではないでしょうか。この近所を発見するという体験は、「通勤の利便性」で選んだ街を「自分が住む」街として、また「みんなが行く」繁華街から「自分の近場での楽しみ」として捉え直し、他者に合わせることから自分に合わせるといった意識に変わっていることを示しているように考えられます。それが結果として、消費行動にも変化をもたらす可能性があります。

図:利用した食事の用意の仕方(複数選択)

(平日)

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(休日)

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アンケート回答者の約半数に及ぶ「生活に対して前向きな気持ちを持つ人たち」は、この期間の余暇においても「急変期」と同様、オンラインを積極的に利用していました。この「前向きな気持ちを持つ人たち」は、性別構成比で若干女性に偏っているものの、年齢、職業、職種などの構成比に関しては全体平均と大差がありません。しかしこの「前向きな人々」は実は余暇の楽しみ方に対する満足度が他の人たちより高かったこともわかりました。コロナ禍において家という空間の意味は大きく変わってきましたが、前向きな人々はこの STAY HOME 期間を通して、家を「楽しめる空間」として再認識したのではないでしょうか。

前述の「急変期」における行動変容が生活環境の変化に対する反応であるならば、「静粛期」における試みは自分にとって心地よい日常のあり方を主体的に模索したものだと言えるでしょう。余暇時間が増えたことで、さまざまなオンラインサービスの利用がピークに達しました。まさに来たる「これから」の土台を形成した時期だと考えられます。

緊張期:環境変化への慣れ、これからの生活とは

ゴールデンウィーク明けからの 2 週間(5 月 9 日〜 5 月 22 日)は、緊急事態宣言を維持したまま、連休から日常への復帰を迫られるという矛盾で緊張感が漂う期間でした。

新型コロナウイルス感染症に対する不安は引き続き弱まりましたが、不安の種類に特徴的な変化が現れました。自分や家族の感染に対する不安は減少し、社会における長期的な影響、特に経済と収入に関する不安、会いたい人に物理的に会えないなど人とのつながりの維持に対する懸念が目立ちはじめたのです。そのような不安が残りつつも、前向きな気持ちは連休の時よりも強まっていました。

図:「新型コロナウイルス」について、あなたを不安にさせていること(最大 5 つまで選択)

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人とのつながりの維持に対する懸念の高まりは、オンラインの意思疎通が実体験に取って代わるものではなく、それぞれ異なる意味があるということを示唆しています。例えばオンラインでは、多くの人が気軽に 1 つの場所に集まる、参加者の表情を 1 つの画面で見れるなど、視覚体験がより重層的になります。一方、実体験で感じる触り心地やその場の匂いなど、感覚的な体験を共有する困難さが浮き彫りになりました。この期間、人々はオンラインとオフラインでの集いの機能的な違いではなく、情緒的な違いに気付いたのかもしれません。それが単に感染拡大前を懐かしんでいるだけなのか、それとも実は非常に本質的な違いなのかは、今後わかってくることでしょう。

前向きな気持ちの高まりは、ビジネスの再開に拍車をかけました。ビデオ会議やウェビナー(オンライン上で実施するセミナー)といったオンラインツールの利用は、連休前よりも活発になりました。一方、仕事上「全部自宅で完結できない」というような、やむを得ない状況もあり、外出も増加しています(「3000 人に聞いた今・これからの働き方」)。

図:働き方について(複数選択)

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静粛期に活発化していたデジタルを活用したコミュニケーションや娯楽は、連休が終わり余暇時間が減ったことで、緊張期には利用率が減少しています。特にまとまった時間を必要とする長編動画や電子書籍の減少が顕著でした。そんな中でも、無料動画配信や音楽配信、スマホゲーム、EC など隙間時間に他のことをしながらでも利用できるサービスの活用は、すでにデジタルの利用が活発になっていた第 1 週より同等または高い水準を維持していました。

またこの時期に大きく低下したのは、コロナ感染状況に関する情報探索の意欲です。感染に対する不安が減少したことで、速報を待ち構えて追うほどではなく、ガイダンスがなくても自主的に対処していくという姿勢が生まれ始めたのだと考えられます。実際、この期間には新型コロナウイルス発生後の生活に「慣れてきている」という気持ちが大きく増加していました。

図:日本国内での感染状況に関する情報源の利用率(複数選択)

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図:新型コロナウイルス発生後の今の生活・暮らしについての気持ちやイメージ

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この時期、連休明けにもかかわらず、全体の外出行動には大きな変化がありませんでした。多くのお店や施設の営業自粛が続き、ゴールデンウィークを通して新しい生活環境に慣れてきたものの、緊急事態宣言が延長されたことで、状況を静観した時期だったと言えます。

自制期:「戻りたい」し「進みたい」

今回紹介する最後の段階は「自制期」(5 月 23 日〜 6 月 12 日までの 3 週間)です。5 月 25 日に全国で緊急事態宣言が解除となりましたが、依然として個人の判断による適切な行動が求められる生活となりました。飲食店やその他公共施設で感染防止マナーが少しずつ定着し、仕事、余暇ともに外出も急増しました。

しかし政府や自治体の「制限要請」が解除されても、新型コロナウイルス感染症は拡大し続けています。感染症に対する不安と気持ちの変化が、それぞれ増減を繰り返し、横ばいで進行しました。新たな生活様式に適応しつつも、事態の長期化による疲労感が増しています。

新型コロナウイルスに対する不安を解消できないまま暮らしていくことは、従来の日常へ「回帰」すると同時に、変化した環境下での新しい過ごし方を「進展」させることでもありました。

例えば、ゴールデンウィーク明けの第 5 週から、在宅勤務は徐々に減り、オフィス出社が増えていましたが、ビデオ会議、オンラインセミナーの利用は、第 5 週以降も増加。この期間、第 1 週よりも高い利用率を維持していました。第 7 週からは外出時間が急激に増加し、デパートやショッピングモールへの買い物に出かける人が増えました。しかしオンラインショッピングの利用も増加したまま高い水準を維持し、場合によっては第 1 週よりも高い値になっています。食生活でも、平日に外で食事をする機会が急激に伸びていますが、テイクアウトの利用率も第 1 週より高い水準を維持しています。

図:働き方について(複数選択)

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図:余暇の過ごし方・楽しみ方(複数選択)

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図:平日に利用した食事の用意の仕方(複数選択)

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このような「回帰」と「進展」の共存は、「これからの社会」に生活者が適応するキーワードの 1 つになると考えています。なぜなら、あらかじめ決まった思考と行動の様式を個人が受容していくのではなく、各個人が主体となり、過去の習慣と新しいやり方の間で混乱が生じ、戻りたがる人と進みたがる人の間で葛藤するというプロセスを通してこそ、「これからの社会」が形作られていくことを示してるからです。それはどちらかの一択ではなく、状況と目的に合わせて、選択的に利用するものであるという可能性もあります。

これまでの調査で、「回帰」と「進展」のせめぎ合いは確認されましたが、それがどの時点で落ち着き、「これからの生活」として定着するのかに関しては、今後も継続的に調査し、そのインサイトお届けしたいと思います。

この記事では、緊急事態宣言が発令された後の 2 カ月間に起きた人々の意識と行動の変化を、マクロな視点から分析・解説しました。しかしながら、当然それぞれの人の意識や行動は、置かれている状況によって大きく異なります。次回は、今回紹介したマクロな視点での社会変化に顕微鏡をあて、さまざまな視点から変化に内包されていたダイナミズムと多様性について解説したいと考えています。

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