人の想いに寄り添い、動画で対話を生み出して社会問題に向き合う - P&G パンテーン

大倉 佳晃 2019年6月 ビデオ, 日用品, 美容

1945 年に誕生したヘアケアブランド「パンテーン」は、「あなたらしい髪の美しさを通して、すべての人の前向きな一歩をサポートする」ことをフィロソフィーとして掲げています。2018 年から、新たにブランドメッセージ「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」を掲げた複数のキャンペーンを実施し、YouTube でも動画広告を配信しています。今回は、その企画背景や、ブランドメッセージを基軸に生活者との対話を深めるキャンペーン設計のポイントを、P&G ヘアケア リージョナル アソシエイト・ブランド・ディレクター大倉佳晃氏に伺いました。

消費者とのエモーショナルなつながりを、より深く

昨今、あらゆるブランドが、「消費者のエンゲージメントをいかに高めていくか」という課題を抱えているのではないでしょうか。特にヘアケア市場では、様々なブランドが生まれて、年々消費者にとっての新しい選択肢が増え続ける状況の中で、改めて消費者とのエモーショナルなつながりを作り出すアプローチを模索したいと考えました。

ブランドのあるべき姿やブランドフィロソフィーである「あなたらしい髪の美しさを通して、すべての人の前向きな一歩をサポートする」を踏まて議論を重ねる中で、「すべての人の自分らしい美しさを尊重し応援するブランドであり続けたい」という想いを込めたメッセージを策定することにしました。そして、生まれたのが「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」というブランドメッセージです。

「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」のもと、展開した3つのキャンペーン

1. 就活をもっと自由に『 #1000人の就活生のホンネ』 プロジェクト

日本における就職活動は、画一的で無個性、没個性と表現されることも少なくありません。ルールに縛られて自分らしさが発揮しにくい就活生を応援することは、パンテーンのブランドフィロソフィーの体現につながると考えました。また、就職活動は多くの方にとっての共通体験でもあることも着目した理由の一つです。

そこで、パンテーンが、就職活動を経験した 1,000 人に就活に関する意識調査をしたところ、就活生の 81%(*1) が「企業に合わせて自分を偽ったことがある」と答えたことが明らかになりました。この調査結果を受けて 2018 年に「#1000人の就活生のホンネ」プロジェクトを発足し、“現代の就活生が、ありのままの姿で、自分らしく就職活動できること”を「#就活をもっと自由に」という言葉に込め、キャンペーンを実施しました。

2. 新年ブランド広告 『#HairWeGo 2019年。さあ、この髪で行こう。』

2019 年の新年には、染めない、隠さないというグレイヘアスタイルが、多くの女性の賞賛を得た近藤サトさんと、生まれたままの髪の個性が、世界中の人々に愛された爆毛赤ちゃん babychanco のコラボレーションによるブランド広告を展開しました。2019 年にもっと多くの方が「なりたい自分」へ、一歩を踏み出せる年となるようにというメッセージを、自分を素直に表現することの大切さを教えてくれたお二人のコラボレーションによって届けることができました。

3. 社会全体で学生の個性尊重考える『 #この髪どうしてダメですか』プロジェクト

 このプロジェクトは、「学校に地毛証明書の提出を求められた」、「先生から地毛にも関わらず、髪を黒く染めるように指導された」という学生がいるというニュースを耳にしたことがきっかけでスタートしました。ブランドフィロソフィーにマッチしているテーマであり、「学生の個性が尊重される社会になることを応援する」という社会的にも意義のあるキャンペーンにできるのではないかと考えました。

そして、全国の現役中高生・卒業生・先生の男女合計 1,000 人を対象に、「髪型校則へのホンネ調査」を実施しました。その調査結果から、先生も現役中高生・卒業生も日本の「髪型校則」について多くの人が疑問を抱いていることを実感すると同時に、この問題に対しては対話をするきっかけを作ることが重要だと感じました。

そこで、先生や学生をはじめ、さまざまな人がお互いがホンネで話す「きっかけ」として、完全ドキュメンタリー形式のオンライン動画を制作しました。実際に地毛証明書を提出したことがある学生と現役の先生方に集まっていただき、台本無しでリアルな対話をまとめることを狙いました。

キャンペーンのメッセージのコピーライティングも検討を重ねて、『 #この髪どうしてダメですか』と、「どうして」という言葉を入れることで、学生の皆さんの素直な心の葛藤に寄り添えるようにしました。また、動画に登場していただいた学生や先生方の人選も、予め面談をさせていただくなど、制作にあたってはかなり詳細な設計をしています。改めて、コピーライティングやリアルさを追求することによって、多くの方の共感を得られるということを実感できました。

YouTube をキャンペーンプラットフォームに選んだ理由

 一連のキャンペーンでは、テレビCM、新聞広告やラジオ、SNS なども活用した中で、YouTube にはリーチ力を期待していました。

『 #この髪どうしてダメですか』動画については、想定以上に多くの方に見ていただくことができました。さらに YouTube は、ターゲティングの手法が豊富で、届けたい人にメッセージをしっかりと届けることができるのが魅力だと思います。結果としても、リーチ数については目標を大きく達成することができました。

広告効果という観点では、ブランドフィロソフィーをストーリーで伝える上で、2 分程度の長尺の動画をしっかりみてもらうことが重要だと考えていました。様々なメディアやプラットフォームで消費者が複数回接触することによる態度変容を期待していましたが、YouTube についてはブランドリフトにおいても目標としていた数値をクリアしています。

また、世論の醸成という観点では、 動画に約 3,000 ものコメントが寄せられました。「こういう広告をもっとして欲しい」、「素敵な動画で共感した」、「広告を自分から見るなんて初めて」という声や、先生と思われる方の葛藤が読み取れるコメントなど、対話のきっかけとしての動画に様々な反響をいただけたのは大きな成果だと感じています。今回の主なターゲットは学生ですが、パンテーンはマスブランドということもあり、社会的なテーマを投げかけて対話を生み出す上で、学生以外の方も共感しやすいメッセージにしたことが、多くのコメントにつながったのだと感じています。

なお、多くのブランドにおいて、YouTube の動画へのコメント(視聴者が動画にコメントを残すことができる機能)をオフにしていることがあると思います。私たちも当初はオフにする予定だったのですが、対話を生み出すという目的のため、オンにする方針に変更しました。結果として、YouTube の視聴者は、動画を見た感想を伝えたい、議論に参加したいといった期待が大きいことを実感しました。企業側としては、コメントへの対応にはリスクを感じがちだとは思いますが、メッセージやクリエイティブのパワーでそうした懸念を乗り越えらえるという手応えも得ることができました。

今後に向けて

これまでも、キャンペーンごとに、消費者との対話のトリガーとなるメッセージや、興味を持ってくれた方が見てくれるタッチポイント、ソーシャルで拡散されるための仕掛けなどを、かなり綿密に設計しています。また、キャンペーンごとに予め検証する仮説を明確にして、各キャンペーンから確実に学び取れるようにすることも留意してきました。

「消費者と一緒に社会の問題に向き合って、一緒にムーブメントを作り上げていく」という考えを実現していく上では、「ブランドと消費者とのつながりが、長期的にはブランドの売上に意味があると、プロジェクトに関わる全てのメンバーが信じていること」、「しっかりとしたコアメッセージを策定すること」などが重要だと感じています。

また、社会問題をテーマにしながら、ブランドメッセージも体感していただくには、長尺の動画でメッセージを届ける必要があり、YouTube はまさにそれが実現できるプラットフォームです。一連のキャンペーンを通じて、設計の意図通り長尺のエモーショナルなメッセージを伝えることができ、かつリーチ数も実現できるという YouTube の強みを改めて検証できました。さらに、今回は動画に多くのコメントをいただいたことで、YouTube が消費者との対話を生み出すプラットフォームとしての活用の余地があることを発見できました。今後も、これらのラーニングを活かしながら、継続的にブランドフィロソフィーを体現するようなキャンペーンを展開してきたいと考えています。

ロレアルが見据える、デジタル マーケティングの次なる一手