2060 万視聴のインバウンド 広告「佐賀モデル」を発明した Google と佐賀市の戦略

陳内 裕樹 2019年11月 ビデオ

「佐賀モデル」と呼ばれる、 YouTube 広告の成功事例をご存じでしょうか? 佐賀市は 2017 年 9 月、インバウンド旅行客の拡大を目的とした初の YouTube 動画広告を配信。世界で 2,060 万視聴、Like 率 98.5% と、目標の 250 万視聴を大きく超える成果を生み出しました。外国人から絶賛のコメントが相次ぎ、「動画を見て佐賀に行きたくなった」と言う外国人も多いなど、期待以上の成果を実現したのです。

この驚異的な成果は、どのように達成されたのでしょうか。鍵はマーケティング戦略を緻密に組み立て、佐賀県と連携し3,600 万円という大きな投資をするという意思決定と、その予算を“ある法則”に従って効率的に配分したことにあります。佐賀市の挑戦と、成功のポイントを一緒にみていきましょう。

客観的なデータを基に組織内での理解を獲得した デジタル戦略 

佐賀市は、佐賀県の県庁所在地。人口は 233,546 人 (推計人口、2019 年 6 月 1 日)、観光では、毎年秋に開催される「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」や佐賀城などが有名です。

日本全体の外国人旅行客はハイペースで増加しており(2008 年から 2018 年 の 10 年間で約 3.7 倍に増加*)、佐賀市の外国人来訪者も毎年増えています。市ではさらなる誘客強化を図るため、海外向けの動画クリエイティブの製作までは行ったのですが、その素材をどう活かすべきか、効果的な配信手法がわからない、予算的な制限など、なかなか広告配信に踏み切れずにいました。また、従来のアナログベースの情報発信では、ターゲット設定などが明確ではなく、漠然としたプロモーションになりがちでした。

そこで佐賀市は Google に相談。互いの知識と経験を活かしながら、佐賀市に合ったデジタル戦略を導き出すことにしました。

行政組織で新たなプロジェクトを立ち上げるには、審議や予算の承認などさまざまなプロセスを乗り越える必要があります。これらをクリアするには、デジタルマーケティングをどう活用し、何を実現するのか、データや根拠をベースにした説得力のある戦略立案が必要でした。

そこで佐賀市の現状、課題、目標、強みなどを整理。Google が持つデジタル広告データや政府系プロモーションの実績データも参考にしながら、最適なデジタル戦略を作成していきました。また、副市長や庁内の部課長が同席するデジタルマーケティング会議を開くなど、組織内での説明を重ねながら、上層部のデジタルへの理解と協力を進めていきました。

佐賀市の古田雄樹氏(経済部 観光振興課 国際戦略室)は「YouTube は月間 20 億視聴数**と圧倒的リーチを持つ国際的に著名な動画プラットフォームであり、インバウンド観光誘客に効果的だと判断しました。YouTube 動画広告の広告費用は動画視聴ごとに発生するなど、費用対効果が明確であることも、採用を決めた大きな要因になりました」と話しています。

成功に導いた、「製作費 : 広告配信費 : 分析費」=「3:6:1」の法則

投下した予算で最適な結果をだすためには、工夫と戦略が重要です。Google の分析によると、プロモーション予算の配分には一定の成功法則があります。それは、予算の構成比を「製作費 : 広告配信実費 : 運用分析費」=「3 : 6 : 1」に設定することです。広告製作費だけでなく広告の配信費用も充分にとること、さらに配信後の分析費も不可欠です。配信したデータを分析し、改善策を考え次々と実施することが、成果へとつながります。

戦略決定の次は、的確に実行する必要があります。佐賀市では業務内容を仕様書にしっかりと明記し、また、構成比の目安をプロポーザル実施要領に記載することで、このプロモーションの目的・本質を理解してくれる受託者を選定しました。

このように、佐賀市はプロモーションの予算割合の成功法則の仮説を事業に落とし込み、発注仕様書へ反映したことで成果を上げました。こうした一連の取り組みは YouTube 広告の成功事例として、「佐賀モデル」と呼ばれるようになりました。

「広告して終わり」ではなく……

今回の目的は、海外に住む潜在旅行者が佐賀市への関心を高め、訪れてみたいと思えるようなプロモーションを行うことです。言語を超え、佐賀を知らない人でも見入ってしまうような動画広告の製作を目指しました。動画では、佐賀市の強みである「のどかさ」や「豊かな自然」などを海外の視聴者が好む切り口で撮影し、佐賀市のイメージを効果的に伝えることに注力しました。

広告配信に当たり、どの市場(国・地域など)をターゲットにするかは、庁内でも様々な意見がありましたが、最寄りの空港に直行便が就航している、といった客観的な要因を整理し、ターゲットを調整しました。

配信フォーマットは、ターゲット国の潜在旅行者に絞り込んで配信し、スキップ機能をつけることで佐賀市に興味を持つ人にフォーカスできる YouTube TrueView 広告を選択。さらに動画広告を観て佐賀市に興味を持った人の受け皿として、来訪意欲を促進するコンテンツを盛り込んだランディングサイトも製作。ウェブサイトへ誘導する「Call-to-Action」で動画からの誘導を促進する工夫もしました。

もう一つの工夫は、「広告して終わり」ではなく、広告結果を今後に活かす PDCA を目的の一つに置いたことです。動画広告の配信によって得られた、国別の視聴状況、動画視聴者のセグメント情報(年代や興味・関心等)を分析することで佐賀市に興味があると推定されるターゲット層が明確になっていきます。そのデータは、今後の施策をより効果的なものへと変えていくヒントになります。さらに佐賀市では、デジタルデータだけでなく、観光案内所で外国人を対象にした動画広告に関するアンケート調査も実施し、より包括的なデータの獲得を目指しました。

目標の 8 倍、 2,060 万視聴達成 Like率 98.5%  

TrueView 広告配信の結果、当初の目標だった 250 万視聴の 8.24 倍となる 2,060 万視聴を達成。Like 率は 98.5%、コメントは 333 件で、世界各国から多言語で好意的なコメントが寄せられる人気動画となりました。コメントでも「YouTube史上最愛的広告(YouTube 史上一番お気に入りの広告)」「The video shows the beautiful view and things of Saga. I really want to visit after watching the Ad(動画では佐賀の美しい景色や飲食物がよくわかる。動画を見たら、本当に佐賀へ行ってみたくなった)」などが寄せられました。

佐賀市の観光案内所で外国人を対象に行ったアンケートでは、 23.7% の人がこの動画広告を見たことがあると回答し、そのうち 94.8% が佐賀に行きたくなったと回答。動画広告が来訪意欲の向上に大きく貢献していたことが実証できました。

九州佐賀国際空港における佐賀県の LCC 誘致が進む中、佐賀市内の外国人宿泊数は、2011 年の年間宿泊人数 2017 人から 2018 年は同 79,868 人と約 40 倍に増えています。そうした中で、今回のデジタルプロモーションで、認知度の向上だけでなく、実際の誘客効果の検証まで大きな成果を上げていることもあり、全国各地の自治体や中央省庁からも、好事例として話を聞きたいという依頼が相次いでいるそうです。

日本国内向けプロモーションも検討へ

今回の結果を受け、佐賀市の古田氏は「動画配信では、市場を理解し、どのようにアプローチすべきかを事前に検討することが、大きな成果につながるということを強く認識しました。いわゆる『STP』(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)といったマーケティング的視点で、佐賀市が展開すべきデジタルプロモーションの在り方を検討することができました」と話します。

YouTube 広告は、費用対効果がはっきり分かることも大きなメリットと感じているそうです。「動画視聴回数と、 1 回あたりの広告視聴にかかる経費を確認することができたため、国・地域ごとにどの程度効果的にプロモーションを行えたかを把握することができました。さらに、市で実地アンケート調査を実施したことにより、実際の来訪についても一定程度の効果を把握することができました。今回の取り組みにより、ターゲット設定→配信→結果の確認→改善案の検討というサイクルが構築できました」(古田氏)。

佐賀市は今後、日本国内の旅行客向けにも同様の取り組みを行うことができないか、検討を進めていくとのことです。

チラシから YouTube 動画広告へ- 来店単価を大幅に削減した IDOM の事例