人口 5,000 人の南の島「与論島」の大きな成果 - 第一回日本国際観光映像祭グランプリを獲得した動画戦略

陳内 裕樹 2019年7月

みなさんは日本にいくつの島があるかご存知ですか?『日本統計年鑑』によれば、その数なんと 6,852 島。本州、北海道、四国、九州、沖縄本島を除いても、有人の離島は 413 島あるそうです。この記事でご紹介する与論島も日本の有人離島の 1 つ。鹿児島県大島郡の最南端に位置し、面積 20.58 km、総人口 5,056 人 (2018 年 10 月 1 日時点の推計人口) という南の小さな島です。

この島唯一の町である与論町は、初の YouTube 動画広告を配信し、わずか 2 週間で 250 万回の視聴を獲得。国内だけでなく海外でも話題となり、「行きたい」「美しい」と絶賛するコメントが多く書き込まれました。さらにこの動画は、第一回日本国際観光映像祭のグランプリも受賞し、プロモーション直後の 2019 年 1 月の与論町の入り込み客数は 1967 年の調査開始以来最高の 4817 名を記録する快挙を成し遂げています。

初の YouTube 動画広告という試みで、与論町がこれだけの成果を挙げるまでに、どのような工夫や苦労があったのでしょうか。人々を惹きつける動画発信までのストーリーをご紹介します。

与論島の課題と、デジタル広告との出会い

与論町は人口 5,000 人ほどの小さな町です。昭和 50 年代に到来した「離島ブーム」も今は去り、来島者に「与論ブルー」と絶賛される海をもつ与論島も、かつてほどの活気はなくなっていました。

観光が商業のメインとなる与論町では、税収減少に従ってプロモーション予算も年々厳しくなっていました。そのため、観光課は観光客を増やす新たなプロモーションを展開することができず、従来のやり方を踏襲したオフラインプロモーションを継続していました。しかし町長の山 元宗氏は、このままでは現状を打開できないという強い危機感を抱き、デジタルを含めた新たな島活性化の手法を模索します。このような流れのなか、山町長が多くの地域や組織を訪問するうち Google と接点を持ったことがきっかけで、今回の取組が発足しました。

なぜ YouTube 動画だったのか?

まず与論町観光課とともに、与論島観光振興における現状の課題と目標を明確化しました。課題は「観光客増加への有効な対策が見つけられていない」こと、最終目標は「与論島への誘客促進と町の活性化」でした。

与論町はこの課題に対して、「与論ブルー」と絶賛される海をメインに、YouTube でターゲットを絞って高画質な映像を配信することにより、与論島の魅力を伝えることを決定しました。言語を超えて、国内外の旅行者の「与論島に行きたい」という気持ちを喚起するには YouTube 動画が最適と考えたのです。

与論島の魅力を余すところなく伝えるには、海外の旅行者の共感を生む本格的な撮影と、全世界に発信が可能な、言語に依存しない動画の制作が必要という結論に至りました。

動画制作における課題と工夫

本格的撮影には一定の予算が求められます。与論町が動画制作においてまず直面したのは、「新しいプロモーションのための十分な予算がない」という根本的な問題でした。そこで与論町観光課は、Google が他自治体との連携で培った財源確保の事例に関する知識などの共有を受け、与論町の現状に即した新たな予算確保案を策定することで最大の課題をクリアしました。

動画制作では地域の魅力を伝え、全世界に共感してもらえるグローバルな視点による映像制作のため、インバウンド向けに実績がある動画クリエイターの協力を得ることにしました。

動画は 4 分間 8K の高画質で撮影しました。ドローンを飛ばして上空から撮影した与論ブルーや、洞窟、神社などの景勝地、島で味わえるグルメや深海ダイビングなど、美しい映像の数々を音楽と波音のみで伝える動画は、撮影期間をじっくり撮りました。

動画は YouTube 広告で配信、その結果から得られた学びとは

動画を YouTube インストリームディスカバリー広告で配信したところ、わずか 2 週間で 250 万回を超える視聴を獲得し、日本だけでなく海外からも「行きたい」「美しい」と絶賛するコメントが続々と投稿されました。また、動画広告視聴者と非視聴者を比べたブランドリフト調査 (対象 3 か国 ) では、視聴者の広告想起率は実に 270% 増加、来訪意向も 61% 増加しました。

人口 5,000 人の南の島「与論島」の大きな成果 - 第一回日本国際観光映像祭グランプリを獲得した動画戦略

一方、サーチリフト調査 (広告配信前後の関連ワード検索数の調査) では、目立った検索数の上昇は確認できませんでした。今回配信した動画は、視聴後の満足感が高く、強い印象を与えることに成功したものの、「今すぐ情報収集したい」という態度変容には至らなかったと分析できます。これにはさまざまな要因が考えられますが、1 つは「この動画を見た後にどのようなアクションをすればよいか」を訴求していなかったことが考えられます。

このようなデータは今後の施策に活用できます。たとえば次回のキャンペーンでは、動画の最後にアクションを促す Call to Action (例:「オフィシャルサイトは◯◯で検索」「◯◯と検索すれば他の YouTube 動画も見られます」など) を設定することで、関連ワードの検索数を伸ばすなど、誘客にインパクトを与えるアクションにつなげることも可能です。

とはいえこの動画の話題性は高く、複数のメディアでも取り上げられました。そして第一回日本国際観光映像祭 (*1)では、200 件を超える応募動画の中から勝ち抜き、日本部門でグランプリを受賞。今年の秋には、ポルトガルの世界観光映像祭で日本代表として与論島の動画が放映される予定です。

誘客促進の点でも確実に効果が出ており、 1 月の入り込み客数は 1967 年の調査開始以降で最高の数字を (4,817人) しました。今年度の入り込み状況も非常に好調に推移しており、町内の宿泊施設からは夏場以降の予約状況も良好という報告も上がっています。

キャンペーンの振り返りと今後の展望

今回のデジタル プロモーションについて、与論町の町長である山 元宗氏はこのように振り返ります。

「与論島は鹿児島県最南端にある小さな島ですが、与論ブルーと絶賛される、七色に変化する透明度抜群の海や、極上のプライベート感が味わえる大小 60 の砂浜、星が降ってくるような満天の星空、島でしか食べられない特産品など、数多くの魅力があります。今回は、デジタルを活用した新たなプロモーションの活用にとどまらず、予算確保など広範なサポートを受けることができました。

その結果、想定をはるかに上回る視聴数と反響をいただき、国際観光映像祭日本部門におけるグランプリなど、世界に誇る魅力ある島として与論島を多方面に PR できました。しかし誘客への取組みは始まったばかりです。奄美・琉球の世界自然遺産登録を見据え、奄美群島が国内外の注目を集めるこの機会を与論町の観光振興のきっかけと捉え、今後も継続的かつ戦略的に来訪につながる施策を実施していくつもりです。」

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