US 版 Think with Google が 2025 年 4 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
新たな商品カテゴリに参入するのは、どんな企業にとっても困難なことです。徹底した顧客理解、新しいインサイトとアイデア、そして強力なマーケティング戦略が求められます。
香りにこだわった手指消毒剤で成功を収めた米国の Touchland が、ヘア&ボディケアという隣接分野へ進出した際にも課題に直面しました。新商品の発表で注目を集めるため、同社はデジタル広告代理店の Within とタッグを組みました。
キャンペーンの準備期間はわずか 6 週間。新商品「Power Essence All-over Body & Hair Fragrance Mists」のために、プロモーションのアイデア出しから広告クリエイティブの制作、新商品の発表までを短期間で終えなければいけません。さらに、新規顧客と既存のファンの両方にリーチする戦略を考える必要がありました。
“ 不可能 ” を可能にするために、Within のクリエイティブチームは、Google の AI を活用し、顧客インサイトの検討やアイデアの生成、ワークフローの高速化、クリエイティブ制作の効率化に挑戦しました。

ブランドのペルソナ構築
まず初めに、Google の生成 AI モデル「Gemini」を活用。Touchland の顧客分析に基づいて、ペルソナを作成しました。
Within のジョー・ヤクエル CEO によると、「Touchland 製品の香りの特徴、過去の顧客調査の結果、製品のミッションである『move your mood and transport the senses(気分を解き放ち、感覚を動かそう)』を Gemini にインプットした」そうです。
Gemini を使って、これらの情報に基づく 4 つの主要なペルソナを設定しました。「意識の高いクールな人」「合理的なプロ志向の人」「健康志向の人」「贈り物を探している人」です。そして、これらのペルソナに共通する興味、たとえば新たな体験を好むこと、大切な人と過ごす時間、旅行、といった関心事を特定することで、一貫した方向性を見出しました。この中でも特に、旅行への関心がキャンペーンの核となるコンセプトになっていきました。
ヤクエル氏によると、これらのペルソナはキャンペーンの後半で非常に重要な指針となり、「メッセージ、トーン、ビジュアル、メディア選定すべての判断に役立った」そうです。
ムードの視覚化
次に Within では、テキストから画像を生成する Google の AI モデル「Imagen」を使ってアイデアを視覚化しました。これにより、どのコンセプトを採用するか、却下するかを素早く判断できるようになったのです。チームは最終的に、旅行が当たる懸賞キャンペーン「Move Your Mood(気分を解き放とう)」をアイデアの中核に据えました。
Gemini を使い、新商品の 8 つの香り(Golden Amber、Mango Mojo など)それぞれに合った旅の目的地を決めました。
具体的な進め方は次の通りです。Gemini に各新商品の香りの名前、香調、説明を入力し、それぞれの香りのイメージに合う旅の目的地の候補を選定。そこからさらに、「直行便の有無」「ホテルの空室状況」「ソーシャルメディアでの評判」「天候」「その土地の雰囲気が香りの世界観に合っているか」など、12 項目で目的地を絞り込みました。
最終的には「Peachy Lychee」の香りを想起させるスパニッシュモスで知られるジョージア州サバンナ、「Lush Tropicale」イメージのハワイのホノルル、「Rich Pistachio」を体現するカリフォルニア州ナパバレーなど、8 つの旅行先が懸賞の商品に決まりました。当選者と同行者は、これらの目的地から 1 つを選び、3 日間の旅行を楽しむ権利を獲得できるというキャンペーンになりました。
このように AI を活用することで、Within は企画から目的地ごとのビジュアルイメージを含むコンセプト策定までを、わずか 1 週間で進めることができたのです。
ビジュアルの完成度を高める
キャンペーンの骨子が固まった段階で、次に Google DeepMind の「Imagen 3」を活用して、8 種類の香りと 8 つの旅行先の世界観を視覚的に表現しました。Imagen 3 は、アイデアの視覚化に使った前述の Imagen の最新モデル(施策当時)です。
Within の動画クリエイターはまず、Imagen 3 を活用して 8 つの 3D 空間のプロトタイプを生成し、これを基に映像とアニメーションの制作に着手しました。

動画はこちら。キャンペーン制作の過程。AI を活用し、最終的にはわずか 4 週間で、8 つの香りと旅行先を組み合わせた懸賞キャンペーンを制作した。
Imagen 3 の出力が非常に高品質だったことに気づいた瞬間、Within にとってまさに「ひらめき」が訪れました。このクオリティであれば、ムードボードやモックアップの段階を飛び越えて、すぐに実際のキャンペーンに使える完成度のビジュアルが作れると確信したのです。この気づきをきっかけに、残りの要素も次々と噛み合いました。チームはビジュアルに動きを加え、さらに生き生きとしたものに仕上げていきました。
「Imagen は、私たちがワークフローに生成 AI を導入するようになって以来、これまで使ってみた拡散モデルの中で、間違いなく一番のお気に入りです。プロンプトの熟練度がなくても、素晴らしい成果物が得られます」(ヤクエル氏)
映像やビジュアルの編集、仕上げ作業もスピーディーに進みました。Google の AI を活用することで、クリエイティブチームはビジョンを素早く言語化し、洗練させることができました。また、複数のチームが同時にプロンプトを実行しながらも、一貫性を保つことができたのです。
Touchland のアンドレア・リスボーナ CEO も「このキャンペーンでは、それぞれの香りの世界を生き生きと表現し、従来の香りの紹介を超えた没入感のある体験を作り上げられました」と振り返ります。
不可能を可能に
この懸賞キャンペーンと 3D ビジュアルの世界観により、Touchland の新商品への期待と関心は大きく高まりました。懸賞には 4 万 6,500 件以上の応募があり、Web コンバージョン率 34%、インプレッション数 1,100 万超を達成したのです。
それだけでなく、Gemini と Imagen を活用したことで、Within は 70 以上の制作物を短期間かつ低コストで実現。ビジュアルアセットの制作時間を 90% 短縮し、全体のスケジュールも 66% 短縮。制作コストは 70% 削減できました。
Within では今後も、商品の売れ行きや SNS での声をもとに、プロンプトをより洗練させていくことで、Touchland のブランド戦略をサポートしていく方針です。
「Gemini は、私たちが初めて使った真のマルチモーダル LLM です」とヤクエル氏。「新商品のキャンペーンで直面した複雑な問題にも対応できる分析力と、最も強力なビジュアルの生成力を備えています」(ヤクエル氏)
AI の可能性を探求したいという意欲に満ちたチームが AI を活用することで、不可能が可能になり、その力をさらに何倍にも増幅できるのです。