例年、Google 検索での検索量の推移からその年の生活者動向を分析してきましたが、2024 年は量的なトレンドが見えにくいこと自体がトレンドといえる年でした。
これは、生活者が自分のニーズを満たす、より個別化した表現で検索するようになったことが一因だと考えられます。
国内において、2024 年 1 月から 3 月までに Google で検索されたクエリを見ると、4 分の 3 以上の商品サービスカテゴリで、クエリが前年よりも長くなっていました(*1)。自分の知りたい情報を求めて、人々がより具体的な検索をしている表れと言えるでしょう。
また、口語表現での検索も増えています。過去 5 年間で見ると、「みたいなやつ」は 95% 以上、「にぴったり」は 50% 以上 、 「っぽさ」「な感じ」は 35% 以上増加しました。検索を支える技術の進化も相まって、従来の「単語 + スペース + 単語」のような検索の仕方にとらわれない、自由な情報探索のあり方が見て取れます。
Google 検索は、自分の知りたいことを、自然な文章でありのまま表現する場になりつつあるようです。だからこそ、検索データを読み解くことで、人々の率直で多様な気持ちを捉えられるかもしれません。
量的トレンドが見えにくい 2024 年、それでも浮かんできた 3 つの傾向
では、こうした状況下でもなお、量的なトレンドとして現れるクエリからは、どのような傾向が浮かび上がってくるのでしょうか? 瞬間風速的な “ バズ ” クエリ以外に伸びが顕著だった検索クエリを分析し、ユーザー心理を読み解いた結果、「ぴったりな正解が知りたい」「考え方のヒントが知りたい」「選び方が知りたい」の 3 つのインサイトが見えてきました。順に紹介します。
なお、以下で取り上げる検索データは、Googleトレンドでの 2023 年と 2024 年の検索量を比較したものです(*2)。

ぴったりな正解が知りたい
検索が個別化、分散化した中でも、ある程度決まった正解がある問いは、量的なトレンドが形成されやすい検索の 1 つと言えるでしょう。 正解が決まっている分、クエリも似通ったものになるためです。最近では、こうした情報探索を AI に頼るケースも増えています。Google の AI である「Gemini」でも、2024 年に最も多かった活用法は、単一または複数の明確な答えを探す調べ物でした。
そんな中で、2024 年の Google 検索のデータからは、自分の置かれた状況やシチュエーションに合った正解を探す検索が、量的なトレンドとして見えてきました。
「ぴったりな正解が知りたい」の顕著な例が、日本国内における英語での公共交通機関に関する検索です。訪日旅行者によるものと思われる検索が伸びており、「train tickets japan(日本の電車の乗車券)」は前年比 190% 以上、「shinkansen(新幹線)」は 40% 以上、「last train(終電)」は 15% 以上増加しました。
国土交通省が実施した訪日旅行者への調査によると、旅行中の困りごととして「公共交通の利用」は上位に挙がっていました(*3)。旅行の形やシチュエーションは人それぞれですが、新幹線や電車などを利用する訪日旅行者の多くに共通する課題だからこそ、それがある種のトレンドとして現れたのだと考えられます。
また「気圧 今日」という検索は前年比 15% 以上、「花粉 今日」の検索も 10% 以上増加しました。これも、気圧による体調の変化や花粉症といった、それぞれのシチュエーションでの悩みが重なった結果ではないでしょうか。ある程度変動はあるものの、1 つの正解があるクエリだからこそ、繰り返し検索がされて量的なトレンドが生まれやすいのかもしれません。

考えるヒントが知りたい
量的なトレンドとして見えてきた 2 つ目が「考えるヒントが知りたい」検索です。
たとえば 2024 年は、円安や物価高騰など経済の情勢不安が続きました。こうした問題に対応するヒントを得ようとしてか、関連する検索が伸びています。
「物価高騰 対策」は前年比で 110% 以上、「投資術」は 65% 以上、「複利 シミュレーション」は 25% 以上増加しました。
また地震や水害といった天災へ備えようとする様子も見えてきます。
「防災備蓄」は 90% 以上、同じく災害用に食品を備蓄しておく「ローリングストック」は 60% 以上増加。他にも「災害 何する」は 90% 以上増加しました。
冒頭で紹介した通り、具体的に自分にとって必要な物や情報がイメージできる場合、検索クエリは個別化し、トレンドとして見えにくい傾向にあります。一方で、対応は必要なものの、その具体的な解決策や必要な対応がわからない問題に直面すると、人々は漠然とした共通のキーワードで検索することになり、結果的に一種のトレンドが形成されると考えられます。
こうした傾向は特定のトピックに限りません。「したときの 対処法」は 35% 以上、「どうしたらいい」も 25% 増加しました。
「考えるヒントが知りたい」検索は、人々の潜在的なニーズの現れとも考えられます。

選び方が知りたい
3 つ目は「選び方が知りたい」検索です。情報や選択肢があふれる今、人々は自分自身で納得のいく決断を下すために、その材料となる情報や自分なりの評価軸を検索で探しています。
たとえば「何がいい」「評価軸」という検索は 15% 以上増加しました。
これらのクエリからは、他者の意見を知ることで自分自身の評価軸を定め、意見や行動を決定しようとする様子が見て取れます。
「グリーンウォッシュ」という検索も 25% 以上増えています。商品やサービスの購入、利用を決断するために、その背景にある情報を探そうとしている人が増えていることの現れかもしれません。
そのほか、初期不良や返品があった製品をメーカーが修理、整備して販売する「リファービッシュ」は 50% 以上、同じく「再生品」は 15% 以上増加しました。これも、新しいものを良しとする既存の価値観にとらわれない選択の一例と言えそうです。
自分の意思決定の軸を決める際に、人々は客観的で多様な価値観に触れようとします。その結果が、一定の量を伴うトレンドとして反映されるのだと考えられます。
これからの企業の情報提供のあり方は
今回、量的なトレンドを基に考察した 3 つのインサイトからは、探している情報があるものの「どこで、どうやって見つければいいかわからない」ときに、まずは使い慣れた Google 検索を利用してみようとする人々の姿が見えてくるのではないでしょうか。
また、この 3 つのインサイトは情報提供をする企業側にとっても示唆があります。たとえば、自社サイトへのアクセスや商品の購入につなげるためには、「商品にたどり着く前の情報探索における、初期段階のクエリはどのようなものになりそうか」「自社商品にたどり着いた場合、どのような比較検討の軸を強みとして評価をしてほしいか」といったことを検討し、それに沿った情報提供がより重要になるでしょう。
あるいは、人々が検索をするよりも前に情報を提供できれば、ユーザー体験をさらに高められるかもしれません。
検索におけるクエリの個別化、分散は確実に進んでいます。その中でも、今回取り上げたような量的トレンドからは、人々の共通の関心事や潜在的なニーズが見えてきます。これらをヒントに、生活者の情報探索を捉え、適切な場所で期待に応える情報を提供することが重要です。
その一方で、量的トレンドが見えたとしても、それだけでは生活者の意識を捉えきれない場合もあるでしょう。なぜなら、同じ検索であっても、その背景にある 1 人ひとりの検索意図や目的はさまざまだからです。そこで、次の記事ではまた視点を変え、2024 年に伸びたクエリの「前後」の検索行動を分析しました。併せて確認してみてください。
検索行動を「線」で捉える「eSIM」「在庫確認」「オールインクルーシブ」
Contributor:中川 智貴(データアーキテクト)/斎藤 圭右(アナリティカルリード)