買い物を取り巻くデジタル化が進み、生活者が新しい選択肢を見つけて、試すことは以前よりもずっと簡単になりました。
オンラインにおける「購入」は、もはや決済の瞬間に限定されるものではありません。生活者の情報探索から検討、そして実際に手に入れるまでのすべてを含む、広範な「購入体験」へと変化しています。買うという体験自体が根本的に変わりつつあるのです。
このような購入体験の変化の背景には、AI の急速な普及と進化が深く関わっています。生活者による生成 AI 関連のサービス利用は進み、企業も AI への積極的な投資で競争力を強化しようとしています。
AI の進化を受けて、まさに人々の情報探索のあり方が変わりつつあった 2024 年は、AI が情報探索や買い物における人々の最善の選択をサポートする存在になっていることを取り上げました。
そして 2025 年は、Google Marketing Live 2025 にて、ショッピング、つまり買い物につながる人々の情報行動を「サーチング」「ストリーミング」「スクローリング」の 3 つに分類して発表しました。これはボストン コンサルティング グループのリサーチ(*1)を通じて見えてきたもので、私たちがスマートフォンや PC で日常的に行っている買い物に関する行動は、おおよそこの 3 つで表せます。
Google ではさらに、これら 3 つの行動がどう買い物につながっているのかを理解するため、日本国内で独自のリサーチを行いました。まずは複数の定性調査を実施し、日記調査や対象者の自宅での訪問インタビューなどを通じて、人々が暮らしの中で習慣的に行う情報探索行動を丁寧に分析。さらにその後、5,000人を対象にした定量調査で検証を重ねました。今回の記事では、調査で得られたリアルな声や事例を基に、生活者の情報探索や買い物に関の実態を深く掘り下げます(*2)。
3 つの情報探索行動:サーチング、ストリーミング、スクローリング
サーチング、ストリーミング、スクローリングの 3 つは、以前からあった行動です。一方で、これら 3 つの行動が示す範囲やその意味は時代とともに変化しています。人々の買い物に大きな影響を与えているこれらの変化を、確認しましょう。
サーチング
- 過去:キーワードに関連する情報を絞り出す方法
- 現在:キーワード検索だけでなく、イメージ検索や動画検索、対話型検索を利用し、意図にあった情報を導き出す方法
初期の検索では、目当ての情報にたどり着くためにキーワードを慎重に選び、ときには複雑な検索式で情報を絞り込む必要がありました。しかし、今では AI の進化により、キーワードの背景にある意図までくみ取った検索結果を得られるようになっています。
検索手段は多様化し、画像、動画、対話といったさまざまな形式で適切な情報を導き出せるようになりました。また検索エンジンに限らず、SNS や EC サイト内、アプリ内など、検索という行動は媒体を問わず一般化しています。
今回実施したインタビューでも、AI に相談しながら加湿器を選ぶ様子や、旅行を計画する際に SNS、YouTube、Google 検索、旅行サイトなどさまざまな場所で情報収集する様子が見られました。さらに、旅行中に AI と会話して目的地を決めたり、実店舗の棚の前で商品の画像検索をしたりと、場所を選ばない検索行動も印象的でした。
ストリーミング
- 過去:主にエンタメを楽しむ方法
- 現在:ジャンルを問わず、単なる情報の取得を超えて一種の擬似体験までできるように
かつては主にエンターテインメントを消費する行動だったストリーミングは、今ではジャンルを問わず、自分の興味関心に合ったコンテンツを追求できる手段になっていてます。
商品の開封から利用までを描いたレビュー動画を視聴すると、まるで自分が商品を買ったかのような感覚を得られ、間接的に買い物における確信を持つことができます。また自分と近いライフスタイルのクリエイターの動画だからこそ、自分の生活にも取り入れたいと思える物事を発見することもあります。今や単なる情報収集を超えて、買い物の疑似体験もできるようになったと言えます。
スクローリング
- 過去:ニュースや掲示板、検索結果を見ながら自分が求める情報を探す方法
- 現在:自分向けに流れてくるテキスト・画像・動画で、興味関心に合う新しい発見をする方法
一画面では収まりきらない情報から「目当ての情報を探し出す」手段だったスクロールは、今では、次々と流れてくる情報の中から「新しい発見を得る」手段へと変わっています。一見、テレビのザッピングに似ているようですが、流れてくる情報はランダムではなく、個人の趣味嗜好に合ったものです。そのため有意義な発見につながりやすいという特徴があります。SNS や動画サイト、ニュースのフィードを見ているときを思い出すとわかりやすいでしょう。今回のインタビューでも、「探していないけど、知りたい情報」に出会い、購入につながる例がありました。
3 つの行動は買い物にどのように影響しているのか
では、サーチング、ストリーミング、スクローリングはどのように買い物につながるのでしょうか。生活者へのインタビューで見えた実際の買い物事例とともに、その特徴を詳しく説明します。
こうして生活者の実際の情報探索や買い物における行動を追いかけてみると、サーチング、ストリーミング、スクローリングが密接に関係しているのがよくわかります。これらの調査結果を踏まえて、私たちは、今日の情報探索行動の特徴をつかむための 3 つの要点を確認しました。
1:3 つの行動はプラットフォームを選ばない
サーチング、ストリーミング、スクリーリングのいずれも、特定のプラットフォームで発生するものではありません。
まず 3 つの行動すべてにおいて、利用されるプラットフォームが多様化しています。たとえばサーチングは、いまだ検索サイトが主流ではあるものの、SNS や EC サイト、動画配信サービスなどさまざまな場所で発生しています。実際に調査でも、半数が検索サイト以外でもサーチングをしていることがわかりました。同様に、半数が動画配信サービス以外でもストリーミングを、3 分の 2 が SNS 以外でもスクローリングで情報を得ていると回答しました(*3)。もはや、生活者の行動を特定のプラットフォームと結び付けることは難しいことがわかります。
2:それぞれに期待される情報はある程度共通している
サーチング、ストリーミング、スクローリングそれぞれで、人々がどのような情報を期待しているのかを調査しました。すると、3 つの行動で期待する情報の種類は、順位こそ異なるもののある程度共通していることがわかったのです。
たとえばスクローリングをするときに最も期待する情報は「面白い・興味深い情報」ですが、生活者は同様の期待をスクローリングをするときにも持っています。また「正しい情報」への期待はサーチで最も高かったものの、スクローリングでも 2 番目に挙がっていました(*4)。調査票では、20 以上の選択肢があったにもかかわらず、重複する結果となったのです
3:3 つの行動に順序はなく、どこからでも購入につながる
上図は、商品との出会いや購入意向が高まる瞬間など、買い物における一連の行動を示しています。見ての通り、いずれも 3 つの行動の割合はほとんど変わりません(*5)。すべての行動が、新しい選択肢と出会うきっかけでもあり、購入に直結する可能性もあるということです。言い換えれば、個々人に対して適切な情報さえ提供できれば、認知から購入まで瞬時に発生し得るということでもあります。
情報行動の新たな捉え方「情報ドリフティング」
このような複雑な行動を直感的に整理したのが、上でも取り上げた三角形のブロックで構築したアニメーションです。今回、定性調査に協力してもらった 7 人のインタビューで確認した実際の買い物を、それぞれこのアニメーションで見てみましょう。
起点も順序もさまざまで、実に多様なパターンがあることが見て取れます。
生活者は、押し寄せる情報の圧倒的なスピードと流れに身を任せつつも、自分にぴったり合う情報を求めてコントロールする技術を持ち合わせています。私たちは、こうした行動を「情報ドリフティング」と名付けました。
一連の情報行動における受動性と能動性の両方を表しており、AI により再編成される情報空間で、流されながらもコントロールをしていく生活者の動きを表現しています。
情報ドリフティングの先にある生活者にとっての「インサイト」
生活者の意図を捉えた情報が、文字だけでなく、画像や動画といったリッチメディアとして共有され、さらに AI によって高度に組織化された状態で提供されるようになりました。つまり、生活者が触れる情報は、個々人の意図や置かれた状況に特化した、より質の高い実践的なものへと昇華しているのです。
日々、情報にさらされている今、それらをまとめて整理し、そこからインサイトを得ることは、もはやマーケターやリサーチャーだけのものではありません。情報ドリフティングを通じて、人々は自分の本質的な願望に気づき、期待を超えた選択肢に出会えます。膨大な情報の中から、最善の選択をする鍵となるインサイトを、自ら得られるようになっているのです。
情報からインサイトを発見できるようになることで、生活者は自身のライフスタイルや価値観に合致する商品やサービスをより見つけやすくなります。結果として、買い物での後悔を減らし、満足度を高めるだけでなく、新たな発見や体験へとつながる可能性も高まります。
情報ドリフティングにおいては、多くの場面で Google のサービスも使われています。たとえば調査によると「Google は情報の確かさをチェックするときに最も利用する手段である」との回答が多く(*6)、またより多くの生活者が買物において Google 検索と YouTube を SNS よりも信頼していると回答しています(*7)。また、3 つの行動それぞれにおいて Google がもっとも利用されるプラットフォームであるという結果も確認しています(*8)。
つまり、Google は多様な接点を横断しながら生活者の意図を理解し、適切な場所で適切なときに有益な情報を届け、インサイトの発見へとつなぐ役割が果たせるということです。これを支えているのは、Google の AI に他なりません。
こちらの記事では、Google の AI が生活者と企業の情報発信をどのように結びつけているのか、具体的な広告製品の進化も交えながら紹介します。