生活者は数々の情報に接することで、商品・サービスの選択に対する肯定度を高めていきます。今回は、肯定度と情報探索行動の関係性に関して分析することで、マーケティングへの示唆を共有したいと思います。
肯定度を高める情報探索とは
まず、買い物に関する情報探索の方法が多様化している中で、情報探索が肯定度の醸成にどのように関係しているのかを調査してみました。その結果、意図せず触れる情報よりも、自ら探し求めにいった情報から大きく影響を受けていたことがわかりました。
特に「自分で検索して見つけた情報」「自分から店舗に見に行った実際の商品」「自分から質問・相談した家族・友人・知人のクチコミ」などが強く出ています。では、具体的にどのような情報探索が肯定度を高めるのでしょうか。それを理解するために、肯定度を高める代表的な情報経路である「自分で検索して見つけた情報」について分析を通じて探りました。
肯定度を高める情報探索行動の特徴
今回の調査パートナー企業の 1 つである調査会社ヴァリューズ は、調査目的でのウェブ閲覧履歴の利用に関して明確な同意を得ている 250 万人の生活者パネルを有しています。今回の分析のために、事前のアンケート調査を通して、40,000 人の中からシャンプー、サプリ、自動車を購入した生活者 1,500 人を選定。サーベイの回答と Web 利用履歴から、具体的な情報探索行動を分析しました。さらにそのうち20人に対しては、購入前の肯定度が高かった生活者、低かった生活者を分類し、購入前の数カ月間にわたる情報探索の特徴を分析してみました。
その結果、購入前の肯定度が高かった購入と、低かった購入では、情報探索の仕方にも差があることがわかりました。注目すべき情報探索行動の特徴に関して 1 つずつ紹介します。
自分が求める価値を軸に検索する
まず初回購入前の肯定度が高い場合は、そうでない場合よりも、検索のキーワードが具体的であることがわかりました。商品に求める価値が明確で、それを満たしているのかを検索で確かめているからです。
こうした検索行動は、特に日用品で目立ちます。例えば「髪のきしみ」とシャンプー商品名を掛け合わせた検索、「肌荒れ予防」と洗顔剤名を掛け合わせた検索が該当します。そうすることで、その商品が自分向けであると肯定しているのだと考えられます。
一方、初回購入前の肯定度が低かった場合は検索キーワードが単純で、商品名だけになっていることが多くありました。商品購入に際して自分が重視している価値がわからない、もしくは言語化できないことが理由の 1 つだと考えられます。調査パネルの分析の中では「パンテーン エッセンシャル」「えんきん ロートV5」など、ブランド同士を掛け合わせた検索で情報収集しているケースもありました。自分では比較軸が見つからず、他の購入者の判断を当てにしようとする様子がわかります。
あえてネガティブな情報を検索する
選択した商品に関してあえてネガティブな情報を調べるような検索をすることもわかりました。ネガティブな検索をしていても、それを打ち消すような記事に流入していることもあり、先に不安を解消しておいたり、あるいは自分の中で期待値をコントロールしようとしたりする動きと考えられます。こういった検索の動機があることは、情報探索のモチベーションに関する記事でも紹介しました。
頼れる情報は複数回閲覧する
選択した商品に関連するページについて、時間をおいて何度も検索、閲覧する行動が見られました。情報探索を通していろいろな情報に接する中で気持ちが揺れた時に、自分が拠り所とする情報を再確認したいという目的があると思われます。時間をおいても自分の気持ちが変わらないことを確かめたり、自分の気持ちを後押ししたりするといった意味合いもあるでしょう。
情報探索量から知る肯定度
定量調査の結果からは、肯定度の状態によって情報収集の積極性にも差があることも発見できました。情報収集と肯定度の関係性をマクロな観点で分析してみたところ、肯定度が低い状態では積極的に調べ、肯定度が高い状態では調べなくなる傾向があることがわかりました。
普段の買い物を思い浮かべると実感してもらえると思いますが、情報を集めると選んだ商品に対する肯定度が高まり、購入または再購入につながりやすくなります。肯定度が高いということは、自分の選択に自信がある、あるいは行動が正しいと思いたい状態です。このとき第三者の情報を自ら探しにいくことは、その自信が揺らいでしまう原因になりかねないので、意図的な情報収集は減る傾向にあります。一方で肯定度が下がってくると、自信を維持するために第三者の肯定的な情報を収集したり、自信を持てる他の選択肢を探し始めたりします。肯定度の高低の背景には、こうした心理的なメカニズムがこの背景にあると考えられるのです。つまり、自社商品に関連する意図的な情報収集がどれくらい行われているかを把握することで、既存顧客と潜在顧客の肯定度やブランドスイッチの可能性を予測できると言えそうです。
肯定度は情報のアップデートによって維持される
生活者の肯定度はまた、意図せずとも接触しているさまざまな情報からも影響を受けています。40 個の商品カテゴリの購入者に関する定量調査で、各カテゴリの初回購入時と継続購入時の肯定度を分析したところ、購入スパンが短く、購入頻度が高い商品カテゴリでは、初回購入時よりも継続購入時に肯定度が高くなっていました。逆に、購入スパンが長く、購入頻度が低い一部の商品カテゴリでは、継続購入時の肯定度が初回購入の時と大きく変わっていないことがわかりました。
私たちはこの結果を、選択した商品に関して新しい情報に接することがない状態が続くと、肯定度が下がると解釈しています。単純に言うと「飽きる」という感覚に近いでしょう。例えば、日用品であれば購入頻度が高い上に製品の更新周期が比較的短いため、新しい広告やキャンペーンに触れたり、商品を購入して利用したりするだけでも新しい情報に接することができます。しかし家電のように次の商品検討までの期間が長い商品の場合、新たな情報に触れることが少ないため、当初の肯定度は次の購入時までに減衰してしまうのです。
つまり、肯定度が高く情報収集に消極的な既存顧客に継続購入を促すには、肯定度を維持させるための企業からのコミュニケーションがより重要になってくることを意味します。また、商品カテゴリとマーケティング課題によってアプローチの方法が異なるということを示唆しています。
購入周期が短いカテゴリで、ブランドスイッチを狙いたいのであれば、そのカテゴリに対して積極的に情報を発信し、生活者の自発的な検索や情報に触れる機会が増えるようにする必要があるでしょう。
購入周期が長いカテゴリでは、肯定度をいかに維持させるかを考えなければなりません。耐久財であっても、今ではハードウェアとソフトウェアに分かれることが増えています。例えば、車や家電のようにハードウエアの買い替えサイクルが長い商品であっても、ソフトウエアの更新による何らか定期的な改善などを通じて、初回購入の肯定度をより長く維持させることが可能かもしれません。
コミュニケーションを通して肯定度が高い購入を増やしていく
今回は、情報と肯定度の複雑な関係性を示す分析結果と、それが実際のプランニングにどのような意味を持つかに関して説明しました。肯定度自体を図ることは容易ではありませんが、生活者の情報探索の特徴から肯定度を予測し、マーケティング示唆のプランニングに活かすことは可能です。肯定度という LTV に直接影響してくる生活者心理をどのように扱うべきかという疑問のヒントになれば幸いです。
連載「継続購入の深層心理」
- 第1回:なぜ私たちは繰り返し購入するのか?
- 第2回:カギは初回購入よりも前にあった、「肯定度」が決め手
- 第3回:情報探索が買い物の「肯定度」に与える影響とは
2022/03/17 13:35 記事を更新。初出時、保有パネル数に誤りがあったため、文章を適宜修正しました。