US 版 Think with Google が 2025 年8 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
McDonald’s や Volvo などでデジタルマーケティング担当役員を歴任した経験豊富なジュリア・ヴァンダー・プローグ氏が、AI 時代における取締役会の重要な役割と、マーケティング幹部に AI に関する適切な問いを続けることがなぜ勝利の鍵となるのかを説明します。
私は、McDonald’s や Volvo、Hyatt Hotels & Resorts などの企業で取締役やデジタルマーケティング担当役員を務め、テクノロジーがもたらす劇的な変化を最前線で目の当たりにしてきました。現在、AI の台頭により再び地殻変動が起こっていますが、多くの取締役会はパズルの重要なピースを見落としていると私は考えています。取締役会で経営陣は課題を自分ごと化して問いを立てますが、特にマーケティングに関しては必ずしも的確な問いが立てられていません。そして、この知識格差はもはや看過できないものになっています。
経営層には、特に AI に関して基本的な監督責任があります。AI がどのように戦略を形作り、新たな機会を発掘するのかを理解しなければなりません。そして何より、プライバシーへの懸念からサイバーセキュリティの脅威に至るまで、AI に内在するリスクを管理しなければなりません。そのためには AI に関する基礎的な理解を持つことが不可欠です。そうでなければ、暗闇の中を手探りで進むことになってしまいます。
ところが実際には、AI への取り組みに関して、多くの取締役会はマーケティングの責任者との議論を十分に行っていません。これは深刻な問題です。マーケターは、特に AI という武器を手にすることで、単に “ お金を使う ” 存在から、収益を牽引する存在へと変わります。市場動向、顧客行動、ブランド戦略を理解する鍵を握っているのです。経営層がマーケティング部門に適切な問いを投げかけることで、計り知れない価値を引き出して企業を前進させることができます。
マーケティング部門や経営幹部に投げかけるべき、最も重要な AI に関する問いを挙げます。
問い 1:私たちの AI 活用は “ ビジネスの成功” に貢献していますか?
私たちは、AI を小手先の改善に使っているのでしょうか? それともビジネスの価値を上げるために使っているのでしょうか? 率直に言えば、もはや AI の活用は実験であってはなりません。中核的な事業目標に直結する、具体的で影響力の大きい場面での活用に照準を絞る必要があります。これは単なる効率性の問題ではなく、厳しい競争環境におけるスピードと差別化の問題です。
AI は手探りの領域であるため、テスト、学習、改善を繰り返す必要があります。マーケティング部門には顧客データという金脈が眠っているのです。そのデータを新しく強力な方法で活用することで、AI は解決すべき真の問題を発見する手助けをしてくれます。
問い 2:AI は顧客の購買プロセスを再定義していますか?
カスタマージャーニーは単に進化しているのではありません。AI によって根本から作り変えられており、その変化を私たちはまだ完全には理解できていません。
それでも確かなことが 1 つあります。顧客は、検索を通じてあなたの会社にたどり着く前に、AI を使って情報収集やリサーチを行っています。そのため以前よりも多くの情報を持ち、目的意識が明確で、すでに購入する準備が整っているのです。
これは、従来のマーケティングファネルという考え方が過去の遺物となったことを意味します。私たちはこの大きな変化に対して、後手に回っているだけなのでしょうか? それとも、AI を積極的に用いて新たな購買プロセスを分析し、予測し、設計しているのでしょうか?
AI が顧客行動にどのような影響を与えるのか、つまり顧客がどこで私たちを見つけ、どのように意思決定するのかを積極的に分析しなければ、経営層が議論すべき重要な課題を見逃すことになります。これは単に検索を最適化するという話ではなく、未来の顧客との関係を主体的に築いていくということなのです。
問い 3:AI 時代において、マーケティングはコストですか? それとも成長を牽引する原動力ですか?
多くの企業はいまだにマーケティングを固定費とみなし、広告費用対効果(ROAS)の最大化に注力しています。しかし、それは過去の遺物です。
より賢明で積極的なアプローチは、マーケティング投資を貢献利益の観点から捉えることです。簡単に言えば、1 ドルの投資で 2 ドルの利益が返ってくるのなら、投資しない手はありません。投資を続けるほど、純利益の伸びが加速していくような最適なバランスを積極的に模索する必要があります。
最新の AI ツールを使えば、迅速にテストを繰り返し、届けたい相手に的確に情報を届けることができます。これを自由に使える今だからこそ、時代遅れの予算モデルに固執する競合他社に差をつけることができるのです。
問い 4:AI リスクに対する計画は盤石ですか?
ここで、私たちの受託者責任が浮き彫りになります。AI 倫理や AI ガバナンスについては、いかなる妥協も許されません。
責任ある安全な AI 利用のために、特にマーケティング部門が管理することが多い膨大な顧客データを保護するためにも、誰の目にも明らかなポリシーを確立しなければいけません。これらは単なるガイドラインではなく、現場の従業員から経営陣まで全員が理解し、厳格に順守すべき義務です。
問い 5:顧客獲得の機会を最大化するために Google の AI を最大限に活用していますか?
AI を活用する新しいサービスが登場する中でも、Google 検索、そしてますます重要性を増す YouTube は、顧客を見つけるための最も効果的な手段の一部であり続けています。マーケティング部門と CMO は、Google および YouTube とのパートナーシップを最大限に活用し、四半期ごとの事業レビューやベータプログラムへ積極的に参加することが重要です。それは、この 2 つのプラットフォームで常に最先端の情報を得て戦略を磨き続けるための鍵となります。
経営層もまた、この連携がブランド構築からコンバージョン獲得に至るまで、自社の最重要目標達成にどう貢献するのかを、深く理解しておく必要があります。
取締役として重要なのは、経営幹部や CMO と戦略的な関係を築くことです。顧客の検索や購入の方法は急速に変化しているため、テクノロジーの変化が新たな成長の機会を生み出す領域においては、大胆な行動を提案できるよう備えておきましょう。
そして、その対話には専門知識を持つ一部の取締役だけでなく、必ず経営層全体が参加するようにしてください。マーケティングにおいて AI を戦略的にどう活用するかによって、全社レベルのインパクトが生まれます。このインパクトを企業の価値創造に結びつけることが、今後の成長の鍵となります。