見過ごしていたニーズを拾うには? 「顧客視点」のデジタルマーケティングが成功した理由──アクサダイレクト生命

佃 裕史 / 2021年1月

保険業界では近年、ネット生命保険の需要が高まっています。対面よりも手軽であること、試算から申し込みの手続きまでオンラインで完結できるといった理由に加え、外出自粛によって、対面営業に積極的に投資をしづらい環境になったことも理由の 1 つに挙げられるでしょう。

その反面、生命保険は申し込みする人に応じて、サービス内容や金額が異なります。結果的に生命保険はオンラインで調べたとしても複雑で、最終的な契約は「対面で説明を受けた後」となりがち。必ずしもオンラインだけで完結しないケースもいまだ多いのです。

ネット生保を扱う当社アクサダイレクト生命保険(アクサ)では、こうした現状を打破するために、顧客視点に立ち返り、顧客の細やかなニーズに応えるマーケティングをすることで、新たな顧客層を獲得しようと考えました。

私たちが今後ビジネスを拡大していくには、契約数の最大化と、LTV(ライフタイムバリュー)の高い顧客にアプローチすることで得られる保険料収入の最大化が必要です。

当社のオンラインでの売り上げは、4 割が生命保険の比較サイトや保険代理店を経由した申し込みでしたが、この両施策を拡大することは営業コストの面で難しく、自社サイトでのダイレクトな申し込みを増やすことが、最初の課題となりました。

知名度アップよりも、生活者視点で「検索広告」を再定義

しかし、生命保険業界では当社よりも知名度の高い企業がいくつもあるため、「アクサダイレクト生命」といった指名検索を強化するのは簡単ではなく、コストもかかってしまいます。そこで当社では「人々の保険に対するニーズは何か」という原点に立ち返り、生活者の細かなニーズを拾いきる方法で勝負することにしました。今まで見えていなかったニーズに沿った訴求をすることで、競合企業と差別化ができ、契約数の拡大も見込めるのではないかと考えたのです。

というのも、保険商品は「自分最適」で選ぶものだからです。そのために複雑な保険は、どれだけ知名度があったとしても衝動的に購入するとは考えにくいでしょう。自分に合った保険を調べ、そのニーズと合致して初めて購入に至ります。そこで当社では、顧客にとって手軽なリサーチ手段である「検索」を最適化することが重要だと考え、顧客のニーズに寄り添う検索広告に変更しました。

獲得効率を追求しつつも、ニーズの掘り起こしを重視した検索広告の運用

これまで当社では、「アクサダイレクト生命」「アクサ」といった指名検索や、「医療保険」「がん保険」といった、企業として押し出したい一般ワードなどを優先した検索広告を運用していました。

それを、保険を購入したい人の幅広いニーズに寄り添える「医療保険 相談」「日帰り入院 保険」「糖尿病でも入れる保険」など一般ワードの部分一致のマッチタイプに変更しました。また、従来見えていなかったニーズも掘り起こせるように、検索クエリをキーワードとして追加し、品質スコアも可視化。その中で「糖尿病 医療保険」「掛け捨て 生命保険 終身」といったスコアの低いワードに対してはレスポンシブ検索広告を用いて改善を図りました。

一方で、こうしたマッチタイプへの変更によって、検索広告の運用課題も想定できたため、できる限り効率を維持する工夫もしました。コンバージョン(CV)に貢献しない検索クエリへの広告を取りやめたり、損保や病名といった生命保険とは無関連なクエリや、広告グループ間で重複したクエリの除外をツールでルール化、ルーティン化し、細かいチューニングにトライしました。このような整理で、たとえば「女性 保険 ランキング」には「女性プラン」の広告しか出ないようにしたのです。

また顧客の検索意図に沿った情報を提供できるように、検索クエリだけでなく、広告文やランディングページ(LP)の内容も変更し、一貫した訴求を心がけました。

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蓄積した顧客データをもとに、次の取り組みへ

こうした取り組みを 1 年ほど続けた結果、顧客層の幅が広がり、当社の中に顧客データも蓄積されていきました。精度の高い顧客分析も可能になり、もう 1 つの課題であった LTV(ライフタイムバリュー)の高い、つまり申し込み以降の契約率や契約保険料が高い顧客へのアプローチにも着手しました。

自社の顧客データなどさまざまなデータを活用して分析を実施。LTV が高いと想定される顧客層を予測したモデルを作成し、そのモデルを広告の自動入札に活用することで、そうした顧客への検索広告での訴求をより強化しました。

この顧客視点に立った一連の取り組みは、LTV の高い契約数の拡大、顧客データの蓄積、顧客分析の精度向上、新しいニーズの発掘、LTV が高いキーワードの発掘……とよい循環を生み出し、今もトライアルを続けています。

実際これらの施策によって、2020 年 1 月から 8 月の前年同期比で、広告出稿クエリ数が 143%、CV クエリ数が 116%、契約数が 138%、年換算保険料収入が 135% のアップに成功しました。

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注目すべきは、契約数と保険料収入の増加率がほぼ比例していることです。通常、契約数が増えると比較的安価な商品を購入する顧客が増えるため、保険料収入の伸びは比例しません。顧客ニーズを捉えつつ、想定していた LTV の高い顧客にしっかり訴求できた結果だと言えるでしょう。

シフトしたマーケティング戦略の意義

「顧客を起点としたビジネスやマーケティングとは何か」と立ち返って考えるとき、重要なのは「ビジョン」と、ビジョンに合わせた既存体制や従来手法の見直しといった具体的な「アクション」です。ビジョンやアクションの策定は、目標や課題、解決策を洗い出し、戦略を立てて進める必要があります。

当社の新方針として、「年換算保険料収入」を 事業の成長につながるマーケティング KPI として明確に打ち出したことで、それを達成するために新たな広告戦略の検討が必要となりました。その第一歩が、検索広告の運用です。例えば Google の「レスポンシブ検索広告」では、設定した複数パターンの見出しや説明文を自動で組み合わせ、機械学習を活用することで、より人々に関連性の高い広告を表示できるようになります。しかし金融業界では広告のレギュレーションが厳しく、自動で広告文を作成した際に、万が一誤った内容で掲載された時のリスクがあることから、あまり導入が進んでいませんでした。それでも Google から示された広告文の組み合わせ例を踏まえて、総合的な判断で進めることができました。

2020 年初頭にはビジネスアナリシス専門部署も設立し、マーケティング全体によりよい循環が生まれました。年換算保険料収入も伸びていることから、今後さらにその体制強化も図る予定です。

「事業の真の成長につなげるマーケティングとは何か」──。その評価指標を考えると、もちろん今回ハイライトした検索広告の改革だけにはとどまりません。しかし、検索広告はデジタルマーケティングにおける歴史が長い分、効率追求という過去の成功例に執着してしまっており、事業成長につなげる機会が眠っていたのも確かです。

顧客層の幅が広がることは、新たなビジネスチャンスにつながります。しかし、「効率」視点だけのデジタルマーケティングでは、顧客層の拡大は難しいでしょう。テクノロジーを活用し、細やかな顧客のニーズに答えるという真の意味で「顧客視点」のデジタルマーケティングが求められているのです。

*運用代理店は電通デジタルです。
佐藤翔太氏(プラットフォーム部門 コンサルタント) / 三谷壮平氏(ソリューション戦略部部長) / 吉田秀穂氏(ソリューション戦略部 アナリスト) / 宮村綾香氏(アカウントプランニング部門 シニアプランナー)

Contributor:
アクサダイレクト生命 ダイレクトマーケティング部 マネジャー 中島正則

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