内閣府・デジタル庁が「EBPM(Evidenced Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)」を推進しています。こうした流れを受けて、地方自治体など公共機関においても、根拠に基づく政策立案と、その効果を測定することが急務となりました。
そうした中で、デジタルマーケティングの重要性が高まっています。パンフレットや看板広告、交通広告といった従来からの非デジタル施策を踏襲するケースが多かった自治体においても、新たなデジタルシフトへの挑戦が進みつつあります。
私たち群馬県としても、デジタルマーケティング(動画広告)が観光客の来訪に本当に寄与しているのかを把握しようと試みました。その結果、データに基づく PDCA を実現し、これまで可視化できていなかったオフラインの来訪を計測。投資対効果を算出するまでに至りました。
根拠ある政策を推進する「EBPM」とは
あらためて EBPM とは、政策の目的を明確にした上で、合理的な根拠(エビデンス)に基づいた立案をしようとする取り組みです。
2017 年に内閣府の官民データ活用推進戦略会議のもとで「EBPM推進委員会」が設置され、その後 2021 年 9 月のデジタル庁の設立に伴い、その動きが加速しました。現在は内閣府、デジタル庁を中心に、さまざまな取り組みを進めています。
EBPM が目指すのは、従来のオピニオンベースではなく、手段と目的の間にある因果関係を的確に捉えたエビデンスベースの政策立案です。一方で、何をもって質の高いエビデンスとするのか、そうしたエビデンスをどうやって得るのか、またエビデンスだけが施策の決定要因にはなり得ないといった問題もあり、具体的な行動への落とし込みが課題でもありました。
オフラインの「来訪」をどう計測するか、群馬県の課題
群馬県では、これまで PR 施策として、パンフレットの配布やポスターの掲示、観光イベント、Web サイトの公開、SNS の更新などに取り組んできました。しかしこれらの施策が、最終的な目的である観光客の来訪に結びついているかについては、十分な効果検証ができていませんでした。
もちろん、デジタルマーケティングがそうした課題を解決する 1 つの足掛かりになることは認識していました。しかしゴールに「観光客の来訪」という、オンラインだけでは完結しない指標を据えていることや、また世界的なプライバシーポリシーの変更の動きにより、O2O(Online to Offline)施策での効果計測がますます難しくなっていることなどから、具体的な打ち手を見出せずにいたのです。
おそらく我々だけではなく、多くの自治体が同じような課題を抱えているのではないかと思います。そうした中で、今回 Google から、デジタルマーケティングを活用した来訪効果の計測の提案があり、実施することに決めたのです。
後述しますが、今回の取り組みは、Google だけではなく、位置情報系テクノロジーソリューション「Foursquare」を含めた三者での協働でした。単独の事業者のデータに基づいた取り組みではないことや、データの取り扱いを理解して中長期的に協働していけるパートナーの存在が今回の施策を実施する大きな決め手でした。
YouTube 広告経由で推定 490 組が来訪、位置情報との連携で来訪データを可視化
実際の施策は下図のとおりです。YouTube 広告を配信し、その接触者が実際にどれくらい観光地に来訪したのかを、Foursquare を使って可視化しました。
まずは群馬県の温泉地への来訪を促す既存の PR 動画を活用し、YouTube の「TrueView インストリーム広告」で配信。居住地域と年齢を掛け合わせた複数のグループに配信しました。
計測に使用したのは、位置情報系テクノロジーソリューション「Foursquare」です。利用者の許諾が取れている GPS 情報を取得し、その情報から利用者の位置や向きや速度と、今回計測した県内 302地点の温泉施設の営業時間を突合して、来訪したかどうかを判定。さらに YouTube 広告のアカウントと Foursquare を法令を遵守する形で連携することで、来訪計測データを Google 広告の「キャンペーン マネージャー 360」上で確認できるようにしました。
その後、グループごとの来訪率などから、広告効果を検証し、次年度以降のコンテンツ制作や配信内容に結果をフィードバックしました。
広告配信は、既存の統計データの分析に基づいて、2 つの層を選定しました。1 つは、総人口に対して比較的来訪者が少ない地域(東京、神奈川、千葉)の居住者。来訪増のポテンシャルがあると考えました。もう 1 つは人口あたりの来訪者の割合が多く、かつ YouTube をよく見ている層(20〜39歳)です。これらの条件に当てはまる人へのアプローチが、より効果的なのではないかと仮説を立て、2021 年 12 月から翌 2022 年 1 月にかけて広告を配信。効果を比較検証するため、上記のエリア、年齢層に加えて、その隣接県と 55 歳以上の層にも同時に広告を配信しました。
その結果、当初の仮説どおり、20 〜 39 歳と 3 都県での来訪率(コンバージョン率)が高いことがわかりました。また来訪者数を推定した結果、およそ 490 組が広告から来訪しているとの結果が出たのです。
プライバシーにも配慮できるデジタルマーケティング
EBPM が目指すのは「エビデンスベース」であること。今回、群馬県ではプライバシーにもきちんと配慮をした上で、YouTube 広告接触後の来訪者数をエビデンスにすることができました。今回獲得できたエビデンスは、今後の来訪者増を促す施策の根拠にもなります。
公共政策において、根拠となる数値が求められる現在。今回私たちが実施した来訪計測はその一例ですが、デジタルマーケティングの経済効果を可視化する上で、大きく貢献できるはずです。
2022/06/10 18:05 記事を更新。初出時、Foursquare の説明に誤りがあったため、文章を適宜修正しました。