アプリ分析プラットフォーム「App Ape」を提供するフラーが公開した「モバイルマーケット白書 2019」によれば、2019 年 12 月のモバイルユーザー(Android 端末を利用)の平均所持アプリ数は 99.3 個、月間の利用アプリ数は 37.5 個 でした。(*1) 同年 1 月に比べて所持数が 13 個、利用は 9 個増加しており、スマホアプリ市場は引き続き活性傾向にあることが分かります。企業にとってはアプリのリリースに伴うユーザーの獲得は大きな戦略テーマと言えるでしょう。
またその獲得手段についても、従来の検索広告に加え、その場ですぐにアプリをダウンロードできるモバイルデバイスの特性を生かして動画広告を最適化するなど、「ダウンロード促進のための広告手法」に発展が求められています。
Google の「アプリ キャンペーン」とは?
Google 広告のひとつである「アプリ キャンペーン」は、あらかじめ設定した目標(インストール数など)に対して、機械学習で自動的に広告運用を最適化します。
広告の掲載先は「Google 検索」「Google Play」「YouTube」「Google ディスプレイ ネットワーク」といった Google のサービスを横断。インストール数を最大化するために「どの媒体で、どのクリエイティブを使い、どのくらいの費用で出稿する」といった一連の運用作業を最適化してくれます。
アプリインストールを効果的に促すために、やるべきことは大きく 2 つに分けられます。
1 つは機械学習を進めるために、「Google が推奨する設定」でアプリキャンペーンを運用すること。これは多くの企業が取り組めている部分です。
2 つめは、クリエイティブの最適化です。Google では、ベストプラクティスで運用している企業に対し、さらなる ROI(投資利益率)を向上させるようなクリエイティブの改善点を「データドリブン クリエイティブ」を用いて分析。その結果から、インストール数など目標達成に効果的なクリエイティブの制作を支援するサービスを提供しています。(*2)このデータ分析に基づいたクリエイティブの制作は、まだ広く浸透していません。
では実際に、「アプリ キャンペーン」を用いたクリエイティブの最適化から、「データドリブン クリエイティブ」の活用まで取り組んだ事例を見てみましょう。
ゲームアプリの動画広告でクリエイティブを最適化したフォワードワークスの取り組み
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの子会社であるフォワードワークスでは、プレイステーションの人気タイトルである「アークザラッド」シリーズを、「アークザラッド R」として、完全な新作としてスマホ用ゲームにしました。そしてそれをユーザーにインストールしてもらうために、一連の広告施策に取り組みました。
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同社はこれまでも、「アプリ キャンペーン」で Google の推奨設定を採用し、確かな手応えを感じていたため、さらにビジネスを拡大していくための次のステップとして動画クリエイティブの改善に着手しました。
複数の動画広告クリエイティブを制作すると、費用や工数もかさむことから、効率的な数種類のクリエイティブを制作し、ゲームユーザーと親和性が高いと思われる YouTube 広告に出稿することに取り組んだのです。
具体的には、Google の分析チームと協力し、担当者が目視でクリエイティブを要素ごとに分解して、それらの要素がインストール率に及ぼす影響について相関分析を実施。分析対象となったデータは、「ある時期のおよそ 4 カ月の間に Android と iOS 向けに配信された動画で、インストール CV が 5 以上ある動画(全 51 個)」です。
その結果、アークザラッド R が「コンソール版ではなくスマホゲームであること」を訴求するのは当然のこと、「縦型フォーマット」や「限定特典」の要素を入れたクリエイティブを用意すれば、インストール率がさらに向上することが定量的にわかりました。
クリエイティブの要素とインストール率との相関関係
一方、分析前に社内では効果的と考えられていた「続編であることの訴求」や、「キャラクターの訴求」といった要素は、それほどコンバージョンに影響しないことがわかりました。あくまでもデータにもとづく仮説ですが、例えば続編訴求は、前作のプレイ経験がないと楽しめないゲームなのではないかと認知させてしまうことがコンバージョンが低かった要因ではないか、といった仮説も立てられます。
このように、要素を分解してデータ分析することで、データの裏付けある仮説を立て、さらなる検証ができるようになります。
こうした検証結果をもとにフォワードワークスでは、既存のクリエイティブから、コンバージョンに好影響がある要素を盛り込んだクリエイティブに改善しました。
インストール率が 31% 向上
改善したクリエイティブを、2019 年 3 月に約 2 週間ほど配信したところ、それまで配信していた広告クリエイティブと比べて、インストール獲得単価(CPI)が 21% 改善し、インストール率も 31% 上昇しました。
同社では、今回得た分析の手法や知見を、今後も他のスマホ向けゲームタイトルでも活用していく予定です。
また今回の分析は、50 以上の動画クリエイティブで、要素に分解するところを目視で行ったため、工数がかかるという課題がありました。これについては将来的に、機械学習で画像情報を引き出す「Vision API」の活用なども検討し、分析そのものを効率化していく予定です。
Contributor:
グローバルテクニカルパートナー 鈴木邦明
モバイル アプリスペシャリスト セバスティアン・ガボリオ
クリエイティブ プロデューサー 高橋有希