US 版 Think with Google が 2023 年 12 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
The New York Times は長らく、中立の立場から質の高い独自の情報を提供するメディアであると同時に、デジタルイノベーターであるという評判を受けてきました。同社の Global Chief Advertising Officer(グローバル最高広告責任者)であるジョイ・ロビンス氏は、フランスで開催された「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル 2023」にて、The New York Times がどのようにして読者の、ひいては広告主のニーズの変化に対応し続けているかを語りました。
The New York Times の使命は、真実を追求し、人々が世界を理解する手助けをすることです。この使命の下、当社は 2022 年に新たなビジョンと戦略を発表しました。世界情勢を理解し、関わりたいと願う好奇心旺盛なすべての読者にとって欠かせない有料メディアになるというものです。
そしてグローバル最高広告責任者である私は、メディアのもう 1 つの側面である広告事業を統括しています。よく聞かれるのは「The New York Times が有料読者を最優先にしながら、どうやって広告収入を生み出しているのか」ということです。
実際、有料会員制と広告ビジネスはうまく調和しており、いずれも私たちの成功に欠かせないものです。購読者に対してお金を払う価値のあるコンテンツと体験を提供することで、広告主の企業にも、購読者とつながれる魅力的な機会を提供しています。この相補的なバランスを実現するための指針を、いくつか紹介します。
購読者の信頼こそが最重要の指針
2023 年第 3 四半期時点で、The New York Times の購読者数はデジタルと紙媒体を合わせて 1,000 万人を超えました。そのうち 370 万人以上は、たとえば料理レシピサイトの「Cooking」のような、私たちが展開している他サービスも購読、利用しています。購読者との直接的な関係を築くことで、広告主が非常に熱心なオーディエンスにリーチするための有意義な方法を提供します。
私たちのルーツは報道ですが、「Wirecutter」(製品レビューサイト)、「Games」(ゲームコーナー)、「Cooking」、「Audio」(ポッドキャスト)、「The Athletic」(スポーツ専門サイト)など、幅広い事業領域にわたって広告の機会を拡大しています。
たとえば、The Athletic の広告ビジネスは成長を続けており、高級ブランドから金融サービスに至るまで、さまざまな業種から強い関心が寄せられています。私たちは、引き続き大規模な取引やスポンサーの獲得に注力するとともに、スポーツファンにとって特別な場所を確立しようとしています。これには、新規事業の垂直立ち上げやニュースレターのような新しいフォーマットの開発、タレント主導の IP ビジネスのクロスメディア展開、スポーツの決定的瞬間を楽しめること、そしてそれらを広告主の利益につなげることも含みます。
事業の基盤にあるのは、購読者からの信頼です。事業領域全体へと広告ビジネスを拡大する上では、各メディアやサービスに合わせた、プレミアムで邪魔にならない広告体験を提供するよう努めています。
たとえばマス目に隠された英単語を当てるパズルゲーム「Wordle」のように、購読者がブラウザの画面上にとどまってプレイするコンテンツでは、ブランドにとって効果的で、かつゲーム体験も損なわないように、さまざまなタイプの広告フォーマットをテストしました。
ファーストパーティ データ活用で、より質の高い広告体験へ
共感を生む質の高い体験を通じて、購読者を引き付けるために、A/B テストを含むさまざまなツールを使っています。また定量的なシグナルだけでなく、社内の報道部からもヒントを得て革新を続けています。たとえば、ニュース記事と広告の両面で見出しをより魅力的なものにするにはどうすればいいのか、といったことを探っているのです。
私たちは、購読者に付加価値を提供し、最高の体験を提供する方法を常に模索しています。数年前、購読者への簡単なアンケートで「私たちの広告ビジネスに役立てるために、もっとあなたの情報を教えてもらえますか」と尋ねたところ、大多数の人が「教えてもいい」との回答でした。
そこで私たちは、読者が無償で自発的に回答したアンケートデータの収集を始めました。そのデータは、データサイエンスチームがオーディエンスターゲティングのための機械学習モデルの訓練に利用するなど、ファーストパーティ データ活用の基礎となりました。
私たちは、ユーザー属性や興味関心などを含む 160 以上のオーディエンスセグメントを構築しています。たとえば、コメディやエンターテインメント、書籍、ソフトウェア、ネットワーク製品、高級腕時計などのトピックに強い関心を持つ購読者へリーチできます。これらのセグメントを活用することで、広告により関心の高い購読者へリーチし、高い広告効果へとつなげているのです。
同時に、Google アド マネージャーによって、自社データを使って構築した独立したソリューションで、広告をさらに適切な購読者に効果的に配信できるようになりました。
購読者への理解を深める
さらに、コンテンツに対して購読者がどのような感情を抱いたかについても調査をしています。私たちは数年前、記事を通じて読者が抱いた感情が、広告やエンゲージメントに与える影響を知りたいと考えました。そこから生まれたのが「Perspective Targeting」です。これは、記事の内容とトピックに基づいた、ファーストパーティ データを活用したターゲティングツールです。42 の感情や 10 の動機などを網羅しており、たとえば「特定の感情や行動を呼び起こすと推測できる記事」など、より深い感情や動機づけレベルでのターゲティングが可能になります。
Perspective Targeting を活用した成功事例も生まれています。たとえば、ある博物館と協力して、「退屈」という感情でタグ付けされた記事に対して、博物館の広告を配信しました。記事の購読者に、退屈な気分を解消する方法として博物館を提示したわけです。この感情ドリブンでのアプローチは、博物館のキャンペーン全体で最も高いクリック率(CTR)を獲得した施策の 1 つになりました。現在も「退屈」は最もパフォーマンスの優れた感情タグとしてランクインしており、同博物館のメディアプランで引き続き成果を上げています。
責任ある、パーソナライズされた広告へのアプローチ
未来に目を向けても、The New York Times が目指すものは変わりません。好奇心旺盛なすべての読者が、世界を理解し、関与するために不可欠な有料会員制であり続けることです。そして同時に、広告主が読者の体験に合わせてより効果的に広告を配信できるよう、ファーストパーティ データを活用した機能を拡張していく予定です。
この、購読者のエンゲージメントと広告効果を組み合わせることで、変化の激しいデジタル環境下でも、私たちのビジネスは着実に成長し続けられています。