昨今、デジタル広告メディアへの投資額は年々成長を続け、その活用は常となってきています。新たな広告フォーマットを利用する、新たなデジタルメディアそのものを試す、自社データの活用を推進するなど、様々な形でオンライン広告効果を高める追求がなされています。
検索広告も実は進化を続けています。技術の進化により、さらなる質と量の追求が可能となってきているのです。今回は、この検索広告において、新たな取組に挑戦した、株式会社ビズリーチ(以下、ビズリーチ社)の例をご紹介します。
当たり前となっていた「検索広告」を改めて見直す
ビズリーチ社では、Web による会員獲得やエンゲージメントがビジネスを成長させていくことに直結するため、最優先事項の 1 つとして、オンライン広告を進化させることに注力してきました。
その中で、今まで行ってきた「何か新しいフォーマットや機能を試す」「社内のデータ統合を推し進める」ことだけが進化なのか?基本的なところを根本的に見直すことで、大きな変化を促すことができるのではないか?と思い立ちました。そこで、特に問題意識をもっていなかった「検索広告」に意識の矛先を向けてみたのです。
検索広告の特性として転職意向度の高いユーザー様の流入が多い点がメリットとしてあげられます。これを拡大できる(接触機会を増やす)進め方はないかと考えはじめました。
そのきっかけは、Google 検索におけるキーワードの傾向でした。スマートフォンの浸透率は 70% を超えている中で、転職に関連するであろう検索キーワードの検索総量は18%、検索キーワードの種類総数は 17% 伸長しています。こうした日本の人々の変化に、機会があるのではないか?と考えたのです。
検索広告のキーワードに眠る、成長機会
このように、日本人の転職に関連するであろう検索キーワード全体に対し、ビズリーチ社が検索広告で対応できていたカバレッジは、ごく僅かに留まっていました。その背景を調べてみると、人々の検索行動の広がりと共に、自動化も含めた効率のみを重視する方針をとっていたことによって、逆に検索広告で対応するキーワード量の縮小均衡が起きてしまったということがわかりました。実際に、社内で「自分が転職するとしたらどのように調べるか?」と調査してみたところ、出てきたキーワードの多くを、検索広告でカバーできていなかったのです。
これは大きな機会損失であると同時に、裏を返せば、ここに新たな成長機会が眠っていると考えました。そこで、人々の検索行動に合わせ、検索広告を投資対効果を追い求めるだけではなく、そのカバレッジも追求する戦略へと切り替えました。
具体的には、検索広告を「転職希望者の集客」のみではなく、「潜在的な機会に寄り添う」ためにも活用をしました。ビズリーチ社では、潜在的な機会を「最終的には転職意志を持つ顕在顧客となるが、本人もまだ明確にその意志は認識しておらず、何か気になるな、知りたいなと思っているタイミング」と考え、こういった方へのアプローチも検索広告で行うようにしたのです。
カバレッジを追求するためにおこなった 3 つのアクション
このカバレッジを追求する戦略に切り替えるために、ビズリーチ社は大きく 3 つのステップを実行に移しました。
1. 検索広告のマインドセットと戦略の転換
コンバージョン (会員登録) への貢献を、いわゆるラストクリックのキーワードのみの評価から、その手前で影響を与えていたキーワードで評価する方針・運用に切り替えました。
このために、データドリブンアトリビューション( DDA )を導入し、コンバージョン経路全体における各キーワードの実際の貢献度を計算しました。方針を決めれば、設定は管理画面上でボタン 1 つで実践することができました。
2. 新たな機会の創出 (量の拡大)
次に、グーグル広告スクリプトにより、検索広告でカバーするキーワードの追加を自動化し、その後、目視でキーワードを精査するステップを導入。これは同時に、自動化により新たに出てきたキーワードに触発され、さらに新たなキーワードを思いつくきっかけにもなりました。
これにより、例えば「転職」「海外転職」のようなキーワードに対してこれまでは入札をおこなっていたものが、新たな転職ジャンルとなる「金融 工学 転職」というキーワードなどの発見へとつながりました。この領域は、従来、業界内の専門ヘッドハンターや口コミで決定していくのが定石でしたが、インターネット上でもその機会を探るようになっているという変化を感じとることができました。
また、興味深いところでいうと、社内でも、「上を目指す求人」「三重県で部長職に転職」など、「なるほど、有り得るな」というキーワードの発見に至りました。さらに、「Web 系の仕事はしたいが転職はしたくない」というような、転職したくないのに、転職意志につながるキーワードや「月収 40 万」「大手 企業」「ヘッドハンティング されたい」「英語をいかした」 という「転職」が含まれない、これまでの定石とは異なるキーワードへの入札にもつながりました。
3. 検索キーワードに連動したメッセージ訴求 (質の向上)
新たに投資する検索キーワードを決定すると、そのキーワードに即した広告見出しや説明文が必要となります。これは一見大変な作業に思えますが、レスポンシブ検索広告 ( RSA ) による自動化、広告カスタマイザの Feed による自動作成で対応できました。
例をあげると、「エンジニア 転職」のようなキーワードに対し、「エンジニア高収入求人も多数掲載」のような新たな広告クリエイティブを制作したりしました。さらに、広告ランディングページも、広告キーワードに合わせて新たなパターンを準備することで、一貫したメッセージを届けるようにしました。
戦略転換による成果
新たな戦略のもとで実際に運用していった結果、ビズリーチ社が許容していた CPA 内で、目覚ましく獲得量を拡大していることが判明しました。この成果をさらに追求していくため、ビジネスに寄与しているキーワードについては、CPA の許容値を上げて今後も運用していくことになりました。
- 検索広告で投資をしたキーワード総数 : 55,000 (2019年1月)
- 会員登録につながった検索広告の語句は約 3 倍に
- 会員登録数そのものは 34% 増加
ビズリーチ社は、本取り組みを踏まえ、次の 2 つの点を重要なポイントと捉えています。
まず 1 つめは、既存施策に対し、常に改善を怠らないという点です。デジタル広告においては、解析ができるデータと手段が発展しているがゆえに、既存施策でどこまでビジネス拡大の可能性があるか、ということについて追求することが大切であると考えています。
2 つめは、チーム内での戦略とアクション、そしてさらに、なぜそれが必要なのか?というビジョン共有を行うという点です。戦略の転換については、多少の負荷も覚悟していましたが、ビジネス成長のためには重要なことであると思い実行しました。実際の作業自体は、自動化に助けられた部分が大きく、手作業に比べると負担は少なかったです。大切なのは、チームで変化を推進するマインドセットや体制を整えることであると実感しています。
「検索広告」に効率性を求めることは、これまでも、そしてこれからもとても重要なことです。さらには、これまでは気付けなかった新たな機会につなげていけるか、結果としてビジネスの拡大に寄与していけるか。この視点も意識して、広告戦略に活かしていくことが大切だと考えています。
左から、株式会社ビズリーチ ビズリーチ事業部 カスタマーマーケティング部 部長 楠瀬大介 氏、株式会社ビズリーチ ビズリーチ事業部 カスタマーマーケティング部 野沢絵里子 氏、グーグル合同会社 シニア アカウント マネージャー 福地 理香