今の時代、生活者とつながるということは、その生活をより豊かにする体験を提供するということを意味します。今回は、Grace Liau ( Google アジア太平洋担当メディア責任者 ) のチームが展開した、生活者とのパーソナルな関わりを重視しつつ、変化の激しい時代に役立つデジタル キャンペーンをご紹介します。
私たちは、いまだかつてないほど膨大な情報に囲まれています。生活者は、自分が求めているものをよく知っており、スマートフォンで欲しい情報にすぐアクセスします。これは、マーケターの役割が変化しつつあるということを意味します。いつの時代でも、マーケティングにおいて重要なことは、生活者のニーズを把握して応えること、彼らの興味を引くこと、そして想定したユーザーに向け、適切なメッセージを最適なメディアを介して的確なタイミングで届けることです。あらゆるものが激しく変化している現在、マーケティングのアプローチも時代に合わせて変える必要があります。鍵となるのは生活者個々人への対応です。
期待した成果を得るためには、マーケターは各メディアやチャネルの役割と、それらがどのように関連しあっているのかを知らなければなりません。本記事では、われわれのチームが採用している 5 つの原則をご説明します。
1. 常に生活者の立場で考える
マーケターは往々にして「メッセージ」にとらわれがちです。しかし、大切なことは、ブランドを印象づけることではなく、いかに生活者の暮らしを豊かにできるかということです。それには、正しい生活者インサイトを把握する必要があります。
従来の調査は、結果が分かるまでに時間がかかり、得られるサンプル数もわずかなものでした。しかし現在では、デジタルによる新たなソリューションを活用することができます。Google Surveys は、特定のフォーカスグループに向けて即時にアンケートを実施することができます。さらに、Google トレンドでは、最新のデータやインサイトにアクセスすることができます。どちらのサービスも、ユーザー層やマーケットの動向を掴んだり、生活者の興味や意向に関する想定を裏付けるために役立ちます。また Google アナリティクス、YouTube アナリティクス、Firebase などの測定ツールによって、キャンペーンの成果を測定することができ、反応がよい広告や、ユーザー エクスペリエンスの改善点なども明らかになります。
インドで実施した Google マップ の #LookBeforeYouLeave キャンペーンでは、突然の大雨や結婚式などのイベントによって交通渋滞に巻き込まれるケースが頻繁に発生していることがわかりました。ほとんどの通勤者は、 Google マップ には交通渋滞をリアルタイムで警告し、別ルートを提示する機能があることを知りませんでした。そこで、この機能の認知を高めることをキャンペーンの目標とし、外出前には Google マップ で最新の交通状況を確認しようと呼びかけたのです。その結果、1 日あたりのアクティブ ユーザー数が 40% 増加しました。そして何より、生活をより快適にできました。
2. メディアの利用状況を把握する
かつては、マーケターがメッセージを伝えることができるチャネルは限定的でした。今では状況が完全に変化しており、もっとも効果的に想定するターゲットにアプローチできるのはどのチャネルなのか突き止めることが新たな課題となっています。
ほぼすべてのアジア太平洋の地域では、動画を視聴するメディアとして、モバイルが急速にテレビからその座を奪いつつあります。この傾向は購入時の意思決定についても同様であり、平均的な生活者は、購入までにオンラインで 4 つのタッチポイントに接触しています。このことは、アジア太平洋地域において、デジタルがマーケティング戦略にいっそう重要な地位を占めつつあるということを示します。
たとえば Google のモバイル決済アプリ Tez のリリースの際、もっとも重要視したのは、アプリのダウンロード数の促進と、決済件数の増加でした。リファラルとインセンティブを採用したユニバーサル アプリ キャンペーンによって、極めて短期間に 3 億 5,000 万件もの Tez 経由の決済が行われました。生活者が各チャネルにどのように接触しているのか知ることができれば、予算を適切に振り分け、最大限の成果を得ることができます。
3. クリエイティブを個別にカスタマイズ
これまで生活者は、ブランドが発信するメッセージを一方的に受け取っていましたが、現在では主導権を握る立場にあります。テクノロジーが生活者とブランドを結びつけてくれたおかげで、求めているニーズを最も的確かつパーソナルに満たしてくれるブランドを選ぶことができるようになりました。
生活者に選ばれるには、パーソナルな関わりが大切になります。高度に洗練された生活者の気持ちに寄り添うには、そのインサイトを明らかにし、メディアと市場の動きを把握することが必要です。デジタルを軸にした戦略のメリットは、リアルタイムでインサイトにアクセスすることにより、各市場の動向を即座に把握できることです。さらに、ユーザーごとにカスタマイズしたクリエイティブを制作し、文化的な背景やトレンドに沿ってリアルタイムで調整することも可能です。
オーストラリアで Google Home を発売するにあたり、それぞれのユーザーのライフスタイルごとに、毎日の暮らしの中でどのように利用するか伝えようと考えました。そこで、Director Mix を使用して 6 秒間の動的な YouTube 動画キャンペーンを制作し、余暇の過ごし方に基づきカスタマイズされた広告を、子どものいるユーザーに向けて配信しました。たとえば音楽好きのユーザーに対しては、Google Home からお気に入りのプレイリストを再生する方法を、レシピ動画を見るのが好きなユーザーに対しては、Google Home を使って必要な食材をハンズフリーで検索する方法を紹介したのです。たった 1 つの動画コンセプトから 100 パターン以上のクリエイティブを派生させたことで、認知度は 11.3%、比較検討率は 10.2% 向上しました。さらに、オーストラリアの子供のいるユーザーからの関連検索数も 98% 増加しました。
さまざまなテストが可能になったことで、従来の手法から脱却し、リスクをあらかじめ予想することができるようになりました。生活者インサイトを活用することで、印象的かつきめ細やかにアプローチする手段を見つけることができます。
4. 納得できるまでテストする
メディアの状況が絶えず変化する昨今、いかに正確にキャンペーンの成果を測定できるかということが重要な課題になってきます。さまざまなテスト配信が可能になったことで、従来なら不可能だった、リスクの予測が可能になりました。生活者インサイトを活用することで、印象的かつきめ細やかにアプローチする手段を発見することができます。
デジタル キャンペーンでは、本格的に運用を開始する前に、複数のバージョンのクリエイティブを試験的に運用してユーザーの反応を確認したり、最も効果的なチャネルを特定したりすることができます。ドラフトとテスト配信、広告バリエーション、エリア別配信による A/B テストなどのさまざまなツールを活用すれば、オーディエンスの固定化を防ぐことができるだけでなく、訴求力のあるメッセージを配信できる可能性がいっそう高まります。
もちろん、大規模なテスト配信を行う必要はなく、小規模なテストでも確かな効果を得ることが可能です。たとえば今回の Google マップ キャンペーンでは、動画広告の冒頭でブランドの静止画像を 1 秒間表示した場合、どのように認知度が変化するのかテストしました。ブランドリフト調査の結果から、冒頭にブランド画像を表示することにより、複数の重要な地域で認知度が平均 10% 向上すると判明したため、それに基づいて動画を編集しました。
5. 一貫性のあるブランド ストーリー
今日のユーザーは、限られた環境から情報にアクセスしているのではなく、さまざまなプラットフォーム、端末、画面を自在に使いこなして情報を収集します。したがって、成果を高めるには、すべてのタッチポイントでブランド ストーリーが一貫している必要があります。ストーリーを途中から見せられたり、同じ部分を繰り返し聞かされたなら、よい印象を持つことはできないはずです。ところが、多くの広告主はいまだに縦割りの組織であり、ブランド、クリエイティブ制作会社、広告代理店がそれぞれ異なった方向を見ているのです。
この問題を解決するすばらしい方法は、キャンペーンを総体として捉えるアプローチです。メディアに予算を振り分ける際、単一のキャンペーンとしてユーザーが視聴するのなら、ブランドとパフォーマンス メディアの予算を分ける必要はありません。
Google は、メディアテクノロジー、インサイト、クリエイティブの専門家が一丸となって取り組めるよう、社内にクリエイティブ インキュベーター制度を導入しました。これは、各分野のエキスパートが連携して、オーディエンス インサイト分析からメディア購入までの流れを一貫した指針に基づいて行うことにより、クリエイティブの質を高めるというものです。このような協力体制によって、より訴求力のあるストーリーを伝えることができ、マーケティングの成果を高めることができます。事実 Google では、このような連携の 80% がサービスの認知度向上につながっています。
デジタルを活用して手応えのある成果を手にする
デジタルで得られるインサイトは、生活者の理解に大いに役立つだけではなく、われわれのキャンペーン展開にも影響を与えます。どこにユーザーがいて、どのように Google のサービスを活用しているのか知ることができるからです。マーケティングにおける鉄則は、ユーザーの利益を常に優先することです。今後デジタル化が本格化するにつれ、ユーザーとのより深いコミュニケーションが可能になってくるでしょう。