インターネットに接続したコネクテッドテレビの普及に伴い、テレビデバイスでの YouTube などのビデオオンデマンド(VOD)視聴が浸透しました。それによって、テレビデバイスに対する視聴行動やニーズも変わってきています。
2023 年 2 月の調査でスマートテレビ(コネクテッドテレビの一種、インターネットへの接続機能を備えたテレビ受像機)での視聴時間を分析したところ、VOD の中でも YouTube は特に視聴時間が長く、さらには民放地上波のキー 4 局平均よりも 72% 長く視聴されていたことが明らかになりました(*1)。
何を求めて、人々はテレビで YouTube を視聴しているのか。それを探るために、まずはデバイスとしてのテレビについて、考えることから始めてみましょう。
「テレビ離れ」は起きていない、データから見るテレビデバイスの新たな価値
「テレビ離れ」が叫ばれて久しいですが、実は “ テレビデバイス ” の利用時間を追うと、イメージとは異なる実態が見えてきます。
2023 年の調査によると、スマートテレビにおけるテレビ放送と配信を合わせた総視聴時間は、2016 年以降、横ばい傾向が続いています(*1)。前述の通り、VOD サービスのテレビ視聴の増加がそれを支えているのでしょう。
同調査では、2023 年 2 月時点で、全テレビデバイスに占める、スマートテレビを含むコネクテッドテレビの割合は 34% で、前年 2 月から 5 ポイント増えました。そしてコネクテッドテレビでの視聴時間(*2)の 40% を VOD サービスが占めています。
このように、テレビデバイスでの VOD サービスの視聴が盛り上がっていますが、これを背景に、従来とは異なる新しいテレビの楽しみ方やニーズが生まれていることも見えてきました。
ここからは、YouTube を例にとり、視聴データや定性調査から明らかになった人々の新たな視聴行動を整理して見ていきましょう。
テレビ視聴はより能動的に
かつてのテレビは、「見て楽しむ」という受動的なニーズに応えるものでした。現在でもそうしたニーズは満たしつつ、同時に「使って役立てる」という能動的な視聴態度もコネクテッドテレビでは生まれています。ユーザーインタビューをひもとくと、「気になる情報を詳しく知りたい」「アクティビティのお手本が見たい」「思い出を振り返りたい」という 3 つのインサイトが浮かび上がってきました。
たとえばユーザーインタビュー(*3)では「(妻と)2 人で旅行に行くので、(テレビで YouTube を)見ながら、ここいいね、もう明後日は絶対にここ行こうよっていうようなことを YouTube を見ながら話したりしますね」(男性/60 代)といった声が聞かれました。何かをする際に、YouTube で詳しい情報を得ようとする人が多いようです。
また、フィットネスや料理、メイク、楽器演奏などのアクティビティのお手本として動画を視聴する人も増えています。YouTube で「参考になる動画を流して、それを見ながら運動や練習、作業を行う」人は 19.1% で、放送(5.9%)のおよそ 3 倍です(*4)。
そのほか、かつて流行した音楽を聞く、以前に行った旅行先の動画を見る、など思い出を振り返るという視聴行動もよく見られました。
「大学時代に聞いていた音楽とかメロディーをふっと思い出す時があるんです。それをどうしてももう一度聞いてみたいなというときに YouTube を使うんです。そうすると、メロディーが蘇ってくる。40 年前のメロディーが。それを妻と僕で、大学の試験でしくじったときにこれ聞いてたね、とか」(男性/60 代)
ザッピングはテレビ放送でも、YouTube でも
このように、「使って役立てる」ものとしてのテレビ視聴が増える一方で、もちろん従来の「見て楽しむ」ニーズも満たしています。
このニーズを調査をもとにもう少し分解すると、「暇を楽しく過ごしたい」「誰かと楽しみを共有したい」「世間の話題を知りたい」といったインサイトが見えてきました。
たとえば、リモコンでチャンネルを切り替えるザッピング時に、テレビ放送だけでなく、VOD サービスを含める人は、79.2% に上ります。また YouTube を「楽しい、リラックスした時間を過ごすために視聴する」人は 52.0%(放送:44.0%)でした(*4)。
これらのデータを見ると、YouTube のような VOD サービスは、もはやテレビ放送と並列のコンテンツとして、生活者に浸透し、余暇を楽しむコンテンツになってきていることがわかります。
また、動画を誰かと一緒に見る「共視聴」も普及しています。コネクテッドテレビでの YouTube の視聴態度として、共視聴が個人視聴と「半々」または「多い」と答えた人は半数以上(*4)。趣味の動画を夫婦で見るといった行動が見られました。
また、話題のニュースなどを押さえるためにテレビ放送ではなく、YouTube クリエイターの解説動画や放送局の YouTube チャンネルから最新情報を得ている人も多くいます。
「(最新サービスの)使い方とか、それに関する関連動画とかがいっぱいあったりして。そういうので自分も情報知ることができる。そういう意味では世界は広いのかなと思います。結構速報性を持ってクリエイターさんがアップしてくれるんで、最新の情報が流れてるっていうのも大きいかもしれないですね」(男性/40 代)
新たな生活者接点になっているコネクテッドテレビ、広告面としての活用も増加
コネクテッドテレビの YouTube の視聴時間は年々伸びており、その背景には「見て楽しみたい」という従来からのテレビの利用方法に加え、「使って役立てたい」という新たなニーズがあることを紹介してきました。
YouTube の場合、豊富なコンテンツに加え、モバイルや PC での利用を経てユーザーが培ってきた視聴習慣や経験が、テレビでの視聴にも新たな影響を与えていると考えられます。
今回の調査では、63.3% の人が、コネクテッドテレビにおける YouTube を「なくなったら寂しいサービス/メディア」と回答しており、テレビ放送(53.0%)にも劣らず、生活に欠かせないメディアになっているようです(*1)。
コネクテッドテレビの普及により、YouTube は人々を楽しませるだけではなく、暮らしのあらゆる場面で役に立つ、必要不可欠な存在になっています。
こうした流れを受けて、広告の配信面としてのテレビデバイスにも注目が集まっています。コネクテッドテレビ向けの YouTube 広告を企業がどのように活用しているのか、トライグループとブリヂストンの 2 社の活用事例も合わせてご覧ください。
また今回紹介したユーザーインタビューは動画でもまとめています。