QR 決済の訴求方法を「広告」「金融」「会員」「C2C」4 つの収益モデル別に考える:モバイルペイメント市場調査

Google コンシューマーマーケットインサイトチーム / 2020年6月

2019 年が大きな転換期となった QR コードを利用した決済サービス(QR 決済)は、従来の決済手段よりも低い手数料を強みに加盟店を拡大させ、魅力的な大型ポイント還元によって、ユーザー間でも急速に普及しました。各社の決算発表や記者会見を見ると、短期的な収益化は目指しておらず、収益性の高い既存サービスとのシナジーを期待する長期的な戦略であることがわかります。

今回は、QR 決済の代表的な収益化モデルを紹介し、各モデルと相性のいいユーザー層の利用を効果的に促進するための施策について考えます。前回に引き続き、Googleと調査会社インテージが共同で実施した QR 決済に関する利用者実態調査(対象は 18 〜 59 歳までのインターネットユーザー(*1))の結果に基づいて、生活者目線でのインサイトを紹介しましょう。

広告、金融、会員、C2C──QR 決済を収益化する 4 つのモデル

QR 決済を提供する企業の多くは利益率の高い既存事業を運営しており、どのような事業と QR 決済を組み合わせるかによって、各社収益化モデルに違いを出しています。

以下に代表的な 4 つの収益化モデルをまとめます。

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QR 決済会社の中には、多様な機能を盛り込んだ「スーパーアプリ」と呼ばれる戦略を発表しているところもありますが、その施策の中身を確認すると、上記の収益化モデルを全方位的に取り組む戦略であると理解できます。

同じように見える QR 決済ですが、このように各社の狙いには大きな違いがあり、ユーザー獲得においても、その狙いと親和性が高い人々を的確に獲得することで、長期的な収益化が望めるのです。

ここでは、各収益化モデルと親和性の高い人々を「重要ユーザー層」と定義し、QR 決済利用意向を向上させる上で、彼らとそれ以外の人々を比較したときに注意しなければならないポイントを確認していきます。

広告モデル:スマホ依存への不安解消対策が重要

広告モデルについて、(1) 実店舗のコンバージョン計測が広告価値の増加につながるか、(2) 広告によって購買に影響を与えやすいか、(3) 購買データの広告利用について寛容か、の 3 つの視点で収益モデルとの親和性を評価したところ、重要ユーザー層は 46% 存在していました。

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(*2)

前回同様、QR 決済に対する認識の関係を分析するフレームワークを使って分析。QR 決済の利用意向を促進する要素が「重要ユーザー層」と「それ以外のユーザー」でどのように違うかに注目しました。すると、興味深い傾向が発見できたのです。

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(*3)

図のように、広告モデルの重要ユーザー層は「ポイント還元」「使い方の理解」の重要性が相対的に低く、「スマホで完結」という認識の重要性が高い傾向にあることがわかります。さらにポジティブ認識とネガティブ認識に分解して見ていくと、重要ユーザー層は「スマホに依存するのが不安」というネガティブ認識がマイナスに働いていることがわかりました。

このことから、広告モデルによる収益化を目指す企業は、「スマホの充電切れ」「スマホの置き忘れ」「スマホの紛失」といった日常的に起こり得る事態に対して、QR 決済を利用していても、それがデメリットにならないような対策とコミュニケーションが重要になります。

金融モデル:他決済よりも優れたポイント還元

次に金融モデルについても、「重要ユーザー層」の定義と、彼らの QR 決済の利用意向を促進する要素について分析しました。(1) 資産運用に対して積極的か、(2) 充実した保険を好むタイプか、(3) 分割払いなどのローンに抵抗がないか、の 3 つの視点で金融モデルとの親和性を評価したところ、ここでは 37% の重要ユーザー層が確認できました。

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金融モデルの重要ユーザー層は「使い方理解」の重要性が低く、「ポイント還元」に対する認識の重要性がよりいっそう高くなっていることがわかります。こちらもネガティブ認識とポジティブ認識に分解すると、実は「他の決済手段のポイントのほうが魅力的」という、 QR 決済にとってのネガティブ認識がマイナスに働いていることがわかりました。

クレジットカードや QR 決済に限らず、ポイント還元はさまざまなところで行われていますが、その一方で条件の複雑化や事業者の増加で、生活者からすると、わかりにくくなっている可能性があります。あらゆる決済手段と比較して QR 決済はポイント還元が最も優れていることをしっかり伝え、常に競合とのベンチマークを行いながら「QR 決済のほうがお得」という認識を浸透させていく必要がありそうです。

会員モデル:セキュリティ不安、使い勝手重視

会員モデルについては、(1) 最安値よりも会員経済圏を優先するか、(2) ポイントを貯めることに積極的か、(3) 会員だけの特典に魅力を感じるか、の 3 つの視点から「重要ユーザー層」を定義し、条件をやや厳しくして、2 つ以上に当てはまる 27% のユーザーについて分析しました。

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会員モデルでは、重要ユーザー層もそれ以外のユーザーも、「ポイント還元」と「使い方理解」の重要性に関しては大きな違いが見られませんでしたが、「安心・安全」と「手軽さ・利便性」では、異なる傾向があることがわかりました。

まず、重要ユーザー層は「QR 決済はセキュリティが不安」というネガティブ認識がマイナスに強く働いており、利用を促進するには、不安を払拭するコミュニケーションが先述の広告モデルや金融モデルで収益化を目指す企業よりも重要だと考えられます。

一方、「QR 決済は面倒で手間がかかる」というネガティブ認識については、本来は利用意向にマイナスに作用するはずですが、重要ユーザー層ではプラスに作用していることが確認できました。これは、このネガティブ認識が利用を促進していると考えるよりも、利用意向の強い人ほど QR 決済の面倒さを実感していると解釈するほうが自然です(前回記事の対応店舗の多さについても同様でした)。

会員モデルと親和性の高いユーザーの獲得には、ポイント還元や使い方を理解させるという王道の訴求と同時に、セキュリティ不安の払拭にも注力して、使い勝手については他のモデルのユーザーよりも要求が多い顧客であるという認識を新たにする必要がありそうです。

C2C モデル:セキュリティは不安だがスマホ依存は仕方がない

最後に 4 番目の収益化モデル、C2C モデルについて見ていきます。シェアリングエコノミーの代表的なサービスである (1) 個人間取引への出品による収入、(2) 所有資産の個人間シェアによる収入、(3) ギグワーク(スキマ時間を活用する仕事)による収入、この 3 つの視点でユーザーの関心の強さを確認したところ、32% の重要ユーザー層が確認できました。

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まず、C2C モデルでも会員モデルの場合と同様で、重要ユーザー層は「QR 決済のセキュリティが不安」というネガティブ認識が、利用意向に対してより強くマイナスに働いており、この認識を払拭するためのコミュニケーションに気を配る必要があります。

一方、重要ユーザー層における「スマホで完結」の重要性はかなり低く、これもポジティブ認識とネガティブ認識に分解して見てみると、「QR 決済はスマホ依存が不安」というネガティブ認識がプラスに作用しているのが原因でした。こちらも解釈としては、ネガティブ認識が利用を促進するのではなく、QR 決済の利用意向が強い人ほど「スマホ依存が不安」と認識し、そのことを憂慮しながらも仕方がないと受け入れている、そのような心理が背後にあると思われます。

今後は戦略に適合した生活者インサイトが重要

今回の記事では、QR 決済の利用促進に向けて何が効果的なのか、サービス提供各社の長期的な収益化戦略も踏まえながら、それらと親和性の高い人々が何を求めているかを探ってみました。「ポイント還元」と「使い方の理解」が最も重要であることは、前回の記事でも触れましたが、ユーザー層ごとに分析すると、それだけではない生活者のニーズが見えてきます。

今のところ各社のキャンペーン内容からは、このようなユーザー層の違いに考慮した訴求の差別化は見られませんが、長期の視点に立った収益化を検討する 2020 年以降は、このような戦略に適合した生活者インサイトが重要になりそうです。

前回、今回と、現金やクレジットカードなどといった既存の決済手段から、QR 決済へと移行を促すために必要な施策を考えるために、利用者の実態を分析しました。次回は数ある QR 決済の中からどのブランドを選ぶのか、その際にユーザーは何を重視しているのかについて見ていきたいと思います。他決済手段との比較ではなく、QR 決済間の比較だからこそ出てくる生活者のインサイトを紹介します。

生活者に選ばれる QR 決済ブランドの条件:モバイルペイメント市場調査