US 版 Think with Google が 2022 年11月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
筆者のメイリーン・スワイデンズは、Google EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)の Creative Works チームに所属しています。チームでは「Open Creative Project」の名の下、長期にわたりクリエイティブの未来に関する研究に取り組んでいます。このプロジェクトには、世界中の技術アナリスト、コンサルティング企業、マーケティングおよびコミュニケーションに携わる各界のリーダーが参加し、多様な視点で幅広いテーマを扱っています。
現在、世界のブランドとマーケティング業界は急激な変革期を迎えており、クリエイティブが究極の強みになろうとしています。そこで Google は「Open Creative Project」を立ち上げ、Contagious や Benedict Evans、Bain & Company といった業界の主要企業、およびクリエイティブやマーケティングの先駆者たち数十人と共にプロジェクトに取り組みました。
その目的は、今後 3 年から 5 年の間に、クリエイティブを通じたビジネスの可能性をテーマとした対話を、集中的かつ継続的に行うよう促すことです。すでに世界中のさまざまな業界における、多様な視点を持つリーダーたちとの対話から、マーケティングの未来やクリエイティブ業界の現状、変革の道のりについて、示唆に富んだアイデアを得られました。
この記事では、そのアイデアの一部を取り上げます。テクノロジーを活用したクリエイティブの役割、マーケティングミックスにおけるクリエイティブの有効性、ブランドと YouTubeで活躍するクリエイターとのコラボレーションの増加、生活者がブランドに期待する進化した価値交換などについて紹介しましょう。
ビジネス全体の課題解決策としてのクリエイティビティ
人類は物語を通じてコミュニケーションをとる唯一の種であり、原始の人々が洞窟に物語を刻んで以来、何千年も物語を紡ぎ続けてきたことを、私たちは忘れがちです。
クリエイティビティは、私たちの遺伝子に組み込まれています。だからこそ人はクリエイティビティを自ら追求し、それを通じて周りとつながり、進化する過程において遺憾なくクリエイティビティを発揮するのです。人類の未来においても、クリエイティビティが重要なことは間違いありません。
近ごろは、DX (デジタルトランスフォーメーション)の文脈を中心に、「トランスフォーメーション」についての議論が盛んです。同様に、ファーストパーティーデータを基にユーザー体験とロイヤルティを構築することもよく話題に上がります。持続可能性や課題意識の高い消費者主義、循環型経済、トータルコマース(人々は常に買い物をしているという概念)についても同様です。
これらのテーマを解析してみると、クリエイティビティがすべての解決策になり得ることがわかります。ときにはそれが当然とみなされたり、常に言及されるわけではなかったりします。しかし、クリエイティビティを発揮することは、ビジネス課題の総合的な解決策として、最高のアイデアと正しい結果を確実に得るために欠かせません。
すべての企業に伝えたいのは、ビジネスを見通すクリエイティビティは、新たなビジネスモデルを生み出したり、困難な課題を克服したりするだけにとどまらないということです。クリエイティビティは、人間や社会が前進するために必要な手段でもあるのです。
クリエイティビティと作り込みの重要性がさらに高まる
クリエイティブな仕事のスタート地点はこれまでも常に「語りたい物語、キャンペーン、はたまたゲームの背景にあるアイデアは何か? 人々の心に深く刻まれる、心に響くアイデアとは?」というものでした。つまり、人々が納得し、共感を生む方法でメッセージを届けられるかどうかは、つい最近の問題というわけではありません。
変わったのは、優れたブランドコミュニケーションとみなされるハードルなのです。
今やそのハードルは、製品やパッケージ、コミュニケーション、小売施策、そしてブランド価値において、人々が抗えないほどの魅力的な体験を作り出せるかどうかにあります。クリエイティブコンテンツと商取引が融合する次の時代は、ビジネスに大きな変革をもたらすでしょう。そしてその時代は、すぐそこまで来ています。
その結果、広告主とクリエイターとが一体となるクリエイティビティが急増すると考えています。両者が協力して、ブランドと生活者とを有機的かつ確実に結びつけるコンテンツを作るために、さまざまな方法を見出すでしょう。それは、コンテンツにおいて広告商品を自然に訴求するプロダクトプレイスメントのような手法ではなく、まったく別の方法となるのです。つまり、これまでも常にビジネスの主要要素であったクリエイティビティと作り込みが、今後数年でさらに重要になるということです。
これは、クリエイティビティを強化するためにデータを使いこなせるようになる必要があることも意味します。これまでデータは、主に可能な限り多くの人々にリーチするために使われてきました。それは必要なことですが、さらに踏み込んで、人々により良い体験を提供するためにデータを使うという方向へと移行する必要があります。
より少ないパーソナライズで、よりパーソナルな顧客体験を
生活者との接点はすべて、ブランドがクリエイティビティを発揮できる機会です。
「次の広告が待ちきれないよ!」などと言う生活者はいません。だからこそ、生活者の立場から見た価値は「ブランドやメッセージ、体験を通じて、私たちの生活を少しでも豊かにするために、企業は何をしているのか? 私たちが何に興味があるかを理解しているのか?」ということなのです。
体験はシームレスで、目に見えないようなものでなければなりません。生活者に「へぇ! 私のことがわかっているじゃないか。自分の名前すら入力していないのに」と思ってもらう必要があります。
パーソナライズするための生活者からの情報提供を求めないにもかかわらず、よりパーソナルな顧客体験を提供できることは素晴らしいものです。ただし、まだ誰もその体験を解明できていないように思います。
パーソナライズの拡大から、多くの共感の醸成へ
多くの共感を生むために、まずは誤った認識を修正するところから始めました。従来の私たちのアプローチは「まずは CPG(消費財)の知識を総動員してセグメント化し、それから各セグメント向けのアイデアを練ろう」というものでした。
しかし、すべてのセグメントを書き込んだ資料を作って「重要なのはこの 15 のセグメントだ。これに基づいてアイデアを作ろう」としても、この方法で得られるのは、全体として大きなコンセプトにはつながらない一連のアイデア群でしかありませんでした。
そこで私たちは、「パーソナライズ」から「共感」へとアプローチを転換しました。まず全体のアイデアから考え始め、その後、どうすれば共感を引き出せるか、パーソナライズの視点で考えていったのです。
初めのうちは、規模を生み出すための生産モデルの構築方法や、そのためのデータ収集方法など、わからないことばかりでした。それでも私たちは、直感的にこのアプローチは正しいと確信していました。
私たちの戦略においては「広告数を増やすためにパーソナライズするのではなく、共感を得るためにパーソナライズする」という標語を掲げました。共感とそのパターンについて考察することで、より高水準のパーソナライズを実現できるようになったのです。天気やスポーツの試合結果、人口統計などに基づく「グループパーソナライズ」から脱却することで、明らかにより良い成果を得られるようになりました。
当社の投資利益率(ROI)は、パーソナライズによっても 20% 向上しましたが、共感パターンによる多くの共感は、それよりも桁違いの結果をもたらしました。
まずは根本的に、こうした共感によるパーソナライズが機能するはずだと信じる必要があります。世界が均質でなくなるにつれて、従来の方法が、本来目指すべきマーケティングからいかに離れているのかがわかるはずです。