社会のデジタル化や、さらには新型コロナウイルスの拡大を機に、金融業界でもサービスのデジタル化が急速に進んでいきました。
デジタルシフトを成功させるうえで、アプリは重要な要素の 1 つです。2020 年 1 月 〜 2022 年 2 月にかけて実施した、調査会社のインテージが保有する i-SSP パネルを利用したログ分析(*1)によると、銀行カテゴリのサービスは、アプリでの利用率が Web での利用率を上回っていました。
このデータからも、銀行などの金融機関におけるアプリ提供が、顧客との接点を拡大し、ロイヤルティを高めることに一役買っているといえるでしょう。一方で、ただアプリを利用してもらうだけではなく、そこで得られたデータを十分に活用してこそ、アプリの真価は発揮されます。
今回は、アプリを主軸にデータ戦略を描きながらビジネスを成長させている株式会社みんなの銀行の事例を紹介します。
スマホアプリ完結型「みんなの銀行」の成長戦略
2021 年に開業した「みんなの銀行」は、口座開設からその後の利用まで、“ スマホ完結型のデジタルバンク ” として注目を集めています。
地域を超え、そして異業種や海外から参入する FinTech サービスにも対抗できる、新しい銀行サービスを確立することを経営目標に据え、デジタルネイティブ世代にとっての使いやすさや操作性を徹底的に追求しています。
あらゆる顧客接点の中心となるみんなの銀行のスマホアプリは、2 周年を迎えた 2023 年 5 月時点で 200 万ダウンロード、口座開設は 67 万件を達成しました。
みんなの銀行の場合、口座開設はアプリ上での手続きで完結するため、アプリをインストールしてもらうことが何より重要です。そこで、口座開設数とローン申込数をさらに伸ばすことを目的として、Google の「アプリ キャンペーン」を活用しています。
アプリ キャンペーンは、アプリユーザーの獲得に特化したキャンペーンです。設定した目標に合わせて、配信先やクリエイティブの選定を機械学習で最適化し、予算内での獲得最大化を目指します。インストールだけではなく、口座開設などアプリ内の特定の行動をしやすいユーザーの獲得を目標とすることもでき、Google 検索、YouTube、Google Play、Google ディスプレイ ネットワークといった Google サービスを横断しての広告配信が可能です。
みんなの銀行では静止画に加えて、複数パターンの動画広告を制作し、若年層に対してアプリ キャンペーンで配信しています。また、UGC コンテンツ風の縦型広告にも挑戦し、クリック率(CTR)を高めることに成功しました。
動画はこちら
動画では、自動で立て替え払いが利用できる「カバー」機能や、預金を目的別に分割して管理できる「ボックス(貯蓄預金)」といった独自の機能をアピールしています。その際に、単にサービスの利点を伝えるのではなく、サービスごとの顧客像を設定し、その困りごとに対応したクリエイティブを制作することで、口座開設の先の生活での用途を想起してもらえるように工夫しました。
これらのクリエイティブは、データを見ながらタイムリーに改善したり、新たに設定した顧客像に合わせてクリエイティブを制作したりを繰り返すことで、広告効果の向上を図っています。また Google のモバイル開発プラットフォーム「Firebase」を Google 広告アカウントと連係させることで、Google 広告とより親和性の高いデータをもって、アプリのエンゲージメントが高いユーザーを獲得できるように、運用を最適化したのです。
その結果、広告を配信した 2023 年 3 月 〜 4 月における、アプリキャンペーン経由での口座開設単価は、前年同期比で 40% 改善しました。
銀行業界では珍しい、あえてクラウド
みんなの銀行では、インフラである勘定系システムの実装にあたり、Google Cloud を利用しています。スピード感を持って開発を続けていくために、銀行業界では珍しく、自社運用のオンプレミスなシステムではなく、あえてクラウドを採用しました。
一般的に、銀行はサービスの性質上、大規模な災害時にも停止しないシステムが必要です。そのためみんなの銀行では、東京と大阪で同時にかつ、パフォーマンスを保ったままシステムを動かせるようにデータベースを整備しました。何らかの理由で、一方の地域でシステムが停止してしまった場合でも、処理時間にタイムラグが出ないように、今回は東京と大阪の両方に同時に処理をさせてデータベースに書き込みする仕組みを取り入れることで、処理中に東京のシステムが落ちても大阪のシステムが動き続けるという構成を実現したのです。
データ活用を成果につなげる組織づくり
みんなの銀行では、経験や勘に頼らないデータに基づいた意思決定こそがデジタルトランスフォーメーション(DX)の必須要素であると考え、データを扱う専門部署として「データクリエイショングループ」を設置。データの分析や AI の構築といった専門業務はもちろんのこと、部署を横断して、社内におけるデータの活用を促す役割を担っています。
データに特化した部署を置くことで、データ品質を担保してその解釈を平準化できるだけでなく、部署レベルでの局所最適を避け、組織のサイロ化を防ぐのです。
またみんなの銀行では、データクリエイションチームが主導となり、法令を遵守した形でデータの “ 民主化 ” を進めています。社員の誰もがデータにアクセスできる環境を整えているため、どの部署でも、自分たちで KPI のモニタリングや基礎的な集計、分析を行うことが可能です。
これにより、各部署がスピード感をもってそれぞれの案件を進められるようになりました。その上でデータクリエイショングループは、そうした各部署の取り組みや社内データの活用に対して、第三者の立場から提言を行うといった立場をとることで、グループ全体として顧客体験の向上に還元する組織体制ができているのです。こうしたデータドリブンマーケティングの基盤として、みんなの銀行では Google の BigQuery を活用しています。
顧客にとっての利便性を考えても、ファーストパーティデータを取得するという点においても、アプリの重要性はますます高まってきています。
蓄積されたデータをアプリ単体で完結させるのではなく、他のシステムやツールと連携し、組織内でデータドリブンでの意思決定ができる環境を整えていくことで、顧客のエンゲージメント向上やマーケティング全体の効率化にもつながります。Google の各種ツールでは、アプリを起点としたマーケティングコミュニケーション全体をサポートします。
Contributor:
柴田明宏:モバイルアプリ業界担当 インダストリー ヘッド
長島大介:モバイルアプリ業界担当 インダストリー マネージャー
尾上俊輔:モバイルアプリ業界担当 アカウント マネージャー