前回の記事では、アプリと Web それぞれを通じたサービス利用を比較。ログデータやアンケート、インタビュー調査の結果をもとに、利用時間や頻度といった角度から、傾向の違いを分析しました(*1)。
今回はさらに一歩踏み込んで、調査を通じて裏付けられた 3 つの事実を取り上げます。
- アプリを利用し始めることで、サービスの利用時間が純増する
- アプリ利用が購入を後押しする
- アプリを通じてサービスの利用が習慣化する
それぞれ順に紹介します。
1:アプリを利用し始めることで、サービスの利用時間が純増する
前回の記事で紹介した通り、調査した 4 カテゴリ(EC、家具・家電、銀行、旅行サービス)いずれにおいても、サービスの利用時間はアプリが Web を上回っていました。
さらに、Web のみの利用者がアプリを利用した場合に、前後でサービスの利用時間に変化があるかを確認するため、アプリの利用開始前後 3 ヶ月間のログデータを分析。すると、Web のみの利用者がアプリを利用し始めることで、サービスの利用日数や利用時間が増加することがわかったのです。
アプリの利用を開始したからといって Web の利用が減少していないのも特徴です。
ここから、アプリは Web に取って代わるものではなく、総利用時間が積み重なって増加していく、両立し得るものだとわかりました。
アプリの場合、家事や仕事の合間、待ち時間といったスキマ時間にも起動しやすいことが利用時間の増加に影響していると想像できます。実際に調査でも、多くの人が休憩するであろう 12 時台のアプリ利用が突出して多いことがわかりました。
2:アプリ利用が購入を後押しする
次に、Web に加えてアプリも併用する人は、Web のみの利用者よりも 1 カ月あたりの利用金額が高い傾向にあることもわかりました。
調査対象の 4 カテゴリのうち、商品サービスの購入を目的としない銀行カテゴリを除いて、 EC、旅行カテゴリではアプリを通じた利用金額が Web の 2 倍、家具・家電では 2.7 倍でした(*2)。
インタビュー調査では、「簡単にお気に入り登録できて、会社の休憩時間や帰宅後にもっと見るようになった」「お気に入り登録のクセがつき定着旅行回数も増えた」(旅行アプリ利用者/30 代男性)や、「LINE と連動した通知機能が廃止になり、自分から(情報を)とりにいかないといけないと思うようになった」(EC アプリ利用者/50 代男性)といった声が聞かれました。
アプリの利用を通じてセール情報に接しやすくなる点、思い立ったときに手軽に決済できる点が、利用金額の増加につながっているものと考えられます。
また EC、家具・家電、旅行カテゴリでの利用実態を比較分析すると、サービス利用におけるアプリと Web の利用目的が異なることもわかってきました。全般的に、情報探索は Web で、キャンペーン情報などはアプリで確認することが多く、また購入は家具・家電カテゴリを除いてアプリで行うことが多かったのです。
情報探索については、特に家具・家電や旅行のように、高価格帯でいろいろな選択肢を比較して検討したい場合には、スマートフォン、PC を問わず Web の利用が多い傾向にあります。
また購入に関しては、習慣的な購入やセールなどのお得な情報の取得、買物カゴに入れた商品やブックマークしておいた商品の購買はアプリでの決済が多く行われます。
2018 年に Google では「パルス型消費」を提唱し、より瞬間的で直感的な買い物行動が増えていることを示唆しました。情報や選択肢があふれ、合理的な比較が難しくなっている今、お得な情報の通知を受け取れたり、気に入った商品情報の直感的な保存や立ち上げが快適であったりといったアプリの特徴は、まさにこうしたパルス型消費に合ったものです。
人々の情報探索から購入に至る動線の中で、Web とアプリ両方の役割を考慮し、それぞれ適切なタッチポイントを持とうとする戦略が求められています。
3:アプリを通じてサービスの利用が習慣化する
各カテゴリのアプリ利用者を対象としたアンケートを通じて、アプリ利用のきっかけや継続理由についても調査しました。
まず利用開始のきっかけとしてはカテゴリを問わず、「よくスマートフォンを利用するため」が上位に挙がっており、スマートフォンでのサービス利用が人々にとって当たり前になっていることがわかります。つまりスマートフォンの利用者を顧客化するにはアプリが必須で、アプリを提供しないことは、潜在的なロイヤルティーの高い利用者を獲得する機会の損失になっているのです。
また EC、家具・家電、旅行カテゴリでは、ポイントに関する理由が上位にあがりました。
これらのアプリでは、アプリ自体が会員証の役割を果たすことも多いため、利用意向のある人のインストールが多いことや、アプリを利用することでポイントを利用するようになるといった行動は予想できるでしょう。
一方で、アプリを利用し続ける理由を聞いたところ、ポイント以外の理由も上位に挙がりました。
そこで、特に高頻度でアプリを継続利用している層(EC は週 1 回以上、家具・家電および旅行は月 1 回以上)において、ポイント関連以外で開始当初と比較して増加が目立った利用理由を抜粋しました。
当初はポイントを理由にアプリを利用し始めた人たちも、アプリを利用し続けているうちに、ポイント以外の点にアプリの利便性を感じるようになっていることがわかるでしょう。
Googleでは、アプリ利用者のジャーニーを以下の図にあるフレームを使って分析しています。利用者はアプリを「発見」して「使い始め」、「習慣化」して「生活で欠かせない存在」になるという 4 段階を経ていきます。この間、何度も離脱と再利用を経験することになりますが、アプリの利便性に気づくことで、アプリを通じたサービス利用が習慣化するのです。
こうした傾向はインタビュー調査でも見て取れました。「アプリの方が立ち上げやすい」「アプリの通知で、セール情報や、お気に入りのブランド・商品が追加された、安くなったという情報が来る」(EC アプリ利用者/40 代女性)など、アプリを通じてサービス利用が習慣化したという声や、「アプリを開く頻度が増えたことで、銀行の他のサービスや、お金に関する情報を見ることが増えた」(銀行アプリ利用者/20 代男性)のように、新たなサービス利用へと広がったケースもありました。
重要なのは、アプリを提供するだけでなく、利用体験から期待以上の利便性を感じてもらえる機能を備えることです。それにより、利用者のエンゲージメントを高めることが可能になります。
またアプリ利用者の 7 割以上が「利用しなくなったアプリは削除することが多い」と回答しており、また半数以上が「アプリストアの評価が低いとインストールしない」と回答しています。使いやすいアプリを目指して、継続的な改善が重要なのです。
アプリを通してサービスへの向き合い方が変わる
アプリの利用開始は、人々にとってサービスの利用やカテゴリ全体の利用をより活性化する効果があります。
今回の調査からは、もともとサービスに慣れ親しんでいたアクティブな利用者であっても、アプリを利用し始めることで、さらに利用時間が純増したり、サービスの新たな魅力に気づくきっかけになったりする可能性があることも見えてきました。
企業にとってアプリは、自社サービスへのエンゲージメントをさらに高め、ビジネスを促進するために、非常に有効な手段だと言えます。
ただし、前述の通りアプリの使いやすさを追求し、Web や店舗といったアプリ以外のタッチポイントを含めたサービス全体の利用体験を設計することが前提です。
またアプリはサービスが持つ価値を享受してもらうためのきっかけにすぎません。サービス固有のカスタマージャーニーを理解した上で、Web に加えてアプリの利用を促す、あるいは Web とアプリを用途によって使い分けられるようにすることで、生活の中でサービスとの接点が増え、生活の一部へと浸透し、結果的にさらにサービスへのロイヤルティーが高まっていくのです。