2022 年は、Google 広告(旧 Google AdWords)が日本でサービスを開始してから 20 年の節目の年です。
時代の変化と共に、広告の機能や推奨設定も変化し続けてきましたが、日頃 Google 広告を運用している人にとっては「この設定はなぜこうなっているのだろうか」「この手順はどうしてそうなっているのだろうか」と疑問に思うこともあるかもしれません。
今回の記事では、今の Google 広告に至る 20 年の歴史の流れを振り返りました。自動化や機械学習の発展が広告運用にどのように貢献してきたか、当時の情報環境と背景を含め、年を追って説明しています。また広告の自動化の行方を展望し、今後のマーケターに必要なことについても考えていきます。
1 章:検索広告の始まり(1998 年~)
Google 広告の中でも最も古いプロダクトが検索広告です。時代の移り変わりとともに多くの変化を遂げてきました。
始まりは 1998 年。検索の形が、ポータルサイト経由のディレクトリ型から、キーワード単位で検索できるロボット検索に変化する中、米国の「GoTo.com」という Web サイトが、世界で初めて検索エンジンに広告を掲載するというアイデアを実現しました。その後 2000 年に Google も「Google AdWords(現 Google 広告)」を始めたのです(日本では 2002 年開始)。
検索広告は、検索結果に直接広告を掲載できるのが特徴です。それぞれの広告主が掲載したいキーワードに対して最大支払額を設定し、その額に応じて入札順位が決まるオークション方式を採用して、当時主流だったバナー広告を追うように、急速に普及していきました。
当初インプレッション単価(CPM:Cost Per Mille)課金方式が主流でしたが、その後クリック単価(PPC:Pay Per Click)課金方式に変更。成果と連携するため、広く広告主に受け入れられました。
Google AdWords の当時のロゴ
当時は、キーワード 1 つずつに対応した広告文を入稿するシンプルな仕組みでした。キーワードを自分で選定し、予算や上限クリック単価も自由に設定でき、広告の管理画面から簡単に開始できる手軽さなどから、予算規模が小さい広告主でも運用しやすい広告として広がっていきました。
日本では 2005 ~ 6 年ごろ、広告アカウントは現在のように大枠の「キャンペーン」とその下の「広告グループ」、その下に「キーワード」「広告文」などがあるという階層構造に変化します。
検索広告キャンペーンの構造の変化
広告アカウントの仕組みが変化するにつれて、キャンペーンの構造は複雑になっていきました。
当時の日本ではフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)市場が盛り上がり、フィーチャーフォン向けの広告市場も拡大していました。多くの企業は PC 用の Web サイトとフィーチャーフォン用の Web サイトをそれぞれ設置しており、それぞれ個別に広告用のキャンペーンを作成しなければいけなかったのです。
さらに、キーワードのマッチタイプごとにキャンペーンを分けて入札価格を設定したり、予算を出し分けたりと、アカウントの構造について試行錯誤しながら、広告主や代理店が独自の方法論を生み出していきました。
当時よく見られたキャンペーン構造の例。デバイスやマッチタイプごとにキャンペーンと予算が分かれ、広告グループ別に入札単価を設定していた
2 章:自動入札の誕生、スマホの普及始まる(2007 年~)
こうした試行錯誤が続いていた 2007 年、コンバージョンに最適化した自動入札機能「コンバージョン オプティマイザー」の提供が日本で始まりました。過去のキャンペーン実績をもとに、機械学習によって目標単価内で最大限のコンバージョン獲得を目指す機能で、これが現在の Google 広告における「コンバージョン数の最大化(目標コンバージョン単価)」の入札戦略につながっています。
その後 2008 年に iPhone 3G が日本で発売されて以降、スマートフォンが普及し始めます。
広告運用に携わる人たちの多くはこれまでの PC とフィーチャーフォンに加えて、「スマートフォン」という第 3 のカテゴリを設けることで、この変化に対応しようとしました。しかしその結果、キャンペーンごとにバラバラに分かれてしまっていたコンバージョンなどの実績はさらに分散が進みました。
コンバージョン オプティマイザーのような機械学習をベースとしたプロダクトが多数登場するにつれて、細分化が進んでいたアカウントの構造との不整合が問題になることが増えていきます。機械学習は、人から与えられたゴールに対し、豊富なデータをサンプルとして AI が自律的にパターンを認識、学習していくものです。その学習に不可欠であるデータが、構造上あちこちに分散してしまっている状態では、機械学習が働きにくく、結果的に手動での運用の負荷が高まってしまっていたのです。
そこで Google では 2013 〜 4 年ごろ、細分化されたキャンペーンの統合を広告主に推奨する取り組みを、日本の広告営業チームがスタートしました。キャンペーンを統合することで、機械学習や自動化によるメリットを最大限享受できるアカウント構造に変えていこうとする動きです。
- キャンペーン、広告グループの構成はランディングページとなる Web サイトの構造に従う
- ランディングページが異なるそれぞれの広告グループごとに、ユニークな(他と重複しない)広告を設定する
- 誘導したいランディングページごとに広告グループ内のキーワードの構成を見直した上で、マッチタイプも再検討し、含まれる単語数の多い(長い)キーワードは極力部分一致を利用する
この狙いは、広告グループ間での競合を避け、それぞれのユニークな広告に対して適切な評価が行われるようにすることで、広告の品質を改善し、アカウント全体の効率を向上させることでした。
アカウントの構造を機械学習に適した形に変更していこうとする動きは日本で先行し、その後アジアやヨーロッパの複数の国にも広まっていきました。
3 章:手動設定から「最適化案」へ(2015 年~)
自動入札の登場により、手動ではカバーしきれなかった個々の検索クエリごとに入札価格を最適化できるようになり、入札は人の手による運用から機械学習による自動管理へと移り変わっていきました。
自動入札やアカウント全体での最適化が進み、広告キャンペーンのパフォーマンスは大きく向上。アカウント構造がスリム化したことで、キャンペーン単位での設定に要する工数なども削減できるようになりました。
これと同時期に、検索広告のキャンペーンが推奨設定をどれくらい満たしているかを示す「最適化スコア」機能の提供が始まりました。広告主のアカウントの状況を踏まえて、改善の余地がある点を「最適化案」として提案する機能です。
現在、この最適化案の対象はキーワードや広告文、広告表示オプションの追加、入札戦略の設定、予算変更など多岐にわたります。またアカウントの利用状況に合わせて、ディスプレイ広告やファインドキャンペーンなどにも表示されるようになりました。
ここで重要なのは、広告運用の手間を減らすことで、本来もっと人手をかけるべきだった部分に時間を割けるようになったということです。
Google 検索広告の根底にある考え方の 1 つに「Target broadly, bid granularly(対象は広く、入札は細かく)」があります。コンバージョンの見込みがあるかどうかをキーワードや除外設定などで細かく選別するのではなく、その部分は幅広く構えつつも、入札で最適化するという思想です。この「入札は細かく」は、細分化した対象に対して手動で入札をするということではなく、自動入札が活用できる多様なシグナルを用いて、検索の背景にある意図に合わせて、適切な入札をすることを意味します。
4 章:効率化のわなを打破する
効率化が進むと、目標とする「コンバージョン単価(CPA)」「広告費用対効果(ROAS)」などがある程度固定化していきます。しかし生活者や市場の動きなど状況は日々移り変わっていくため、固定化された目標を達成するだけでは機会損失につながってしまうことがあります。つまり効率性のみを重視し過ぎてしまうと、獲得効率の良い特定の層へ配信が偏ってしまい、ビジネス全体の規模が縮小してしまう可能性もあるのです。
そのときに気をつけたいのが、次の 4 点です。
- キーワード:より幅広い検索クエリに反応できるようにするためのキーワード追加や設定
- 入札単価:生活者の意思決定の場に広告がきちんと存在できるようにする入札設定
- クリエイティブ:必要十分な量の広告文や広告表示オプションを設定する
- 予算:予算不足による機会損失を防ぐ
広告の表示回数を最大化するための改善点
これらの要素は、効率性のみに最適化していた運用から一歩進み、広告を最終的なビジネスの成長につなげるためのポイントです。
またデジタル広告における指標そのものについても見直す必要があるでしょう。
デジタル広告が生まれた当初は、広告の指標とビジネスの目標が直結しているケースが一般的でした。しかしその後デジタル広告の裾野が広がり、企業の中で運用を担当するデジタルマーケティング部などが立ち上がってくるようになると、担当する部署内に閉じた最適化が進んでしまうようなケースも増えていきました。その結果、広告の指標とビジネス目標が乖離し、広告効果は高いのにビジネスが成長しないといったねじれ状態が発生してしまうようにもなったのです。
これを改善するためには、デジタル広告における KPI の見直しが必要です。たとえば、コンバージョン数や CPAだけを指標として獲得を増やそうとした結果、利益率の低いコンバージョンばかり獲得してしまっている場合、指標を広告費用対効果 へ変更するなどが考えられます。
5 章:ファーストパーティデータの重要性(2022 年現在)
ここまで 20 年間の流れを見てきましたが、変化は今も続いています。
どのような検索も、その奥には生活者がいて、1 人ひとりが意図を持って検索し、クリックし、コンバージョンしています。かつては人々がサイトに流入してから離脱するまでの「セッション」をベースに、Webサイトのアクセスデータの分析が盛んに行われていました。しかしタッチポイントが増加し、多様化する今日の消費者行動では、セッション単位の分析だけでは不十分と言えるでしょう。生活者の行動だけでなくその意図までを汲み取った、より長期間での分析が重要になってきています。多様化する生活者の行動を理解して個々のニーズに合わせたコミュニケーションが求められているのです。
一方で、プライバシー意識の高まりを受けて、生活者の同意がないデータの活用や、サードパーティ Cookie を用いたトラッキングなどが制限されてきています。そこで重要なのが、生活者の同意のもとに収集されたファーストパーティデータです。これは今後のデジタルマーケティングにおける「資産」と言えます。機械学習と掛け合わせることで、ビジネスをさらに成長させる可能性を持っているのです。
2 章でも触れた通り、機械学習をよりうまく活用するには、豊富な学習データを用意すること。最新の技術を取り入れながら、貴重な資産となるデータを収集、蓄積し、分析して得られたさまざまな顧客像やインサイトをビジネスに活用しましょう。
6 章:機械学習、その先へ(これから)
Google 広告の自動化はさらに進んでおり、人々の手間を可能な限り減らそうと取り組んでいます。ではこのまま自動化が進めば、広告の運用に人の手は必要なくなるのでしょうか? 私たちはそうは考えていません。
食器洗いを例に考えてみましょう。
食器洗いを自動の食洗機に任せる場合でも、より効率的に洗うために皿の配置を考えたり、落ちにくい汚れは予洗いしておいたりなど、人が介在する部分はゼロではありません。機械が得意な部分は機械に任せつつも、人にしかできない部分を人が担うというのは、広告運用でも同じことが言えます。
今後マーケターに求められるのは、自動化できる部分とそうでない部分を見定めながら、進化するツールや機能に適応し、それでもなお残る、人の手でしか改善できない部分に時間をかけることです。広告の運用で言えば、KPI や目標値の設定、クリエイティブやランディングページの改善、データ収集のための基盤づくりや数字だけでは見えない背景など、人にしかできない部分は残り続けるのです。
最後に
生活者の行動が複雑化し、広告を目にする場面も多様になっていく中で、広告のパフォーマンスを改善するには、検索広告だけを最適化すればよいなど、一つの広告メディアの中での最適化に集中する、というわけにはいかなくなってきています。
マーケターは、機械学習の進化とともに柔軟に対応を変えながら、人手が必要な KPI や目標設定、ビジネス目標の達成ルートなど、マクロな視点で全体の指揮を取ることが重要です。
Google は今後も、広告主の皆さまがビジネス目標を達成できるような機能を提供し続けていきます。それらは広告主の目標やデータなどのインプットをもらって初めて、ソリューションとして意味を成すものです。
皆さまが、ご自身のビジネスにおいて目指すべきポイントは何か、何を機械に任せて何を自分が決めるべきかを見定めつつ、Google 広告を活用してビジネスの成長を目指せるよう、この記事が参考になれば幸いです。
なお、さらに詳しく知りたい人は筆者が解説したこちらの動画をご覧ください。