本記事は、US 版 Think with Google のポッドキャスティング番組「Modern Marketers」を日本語に翻訳し、抜粋・編集したものです。この番組では、業界をリードするマーケターやブランドの責任者らに話を聞き、現代のマーケティングのあり方や実践をひもときます。今回は Uber のデビッド・モーゲンセン氏(VP of Marketing)が登場しました。
必要なクリエイティブの数が激増、複雑性も増している
モーゲンセン氏は BMW や Google で長年ブランド戦略とデジタルマーケティングを手がけた後、2020 年に Uber に入社。現在は、グローバルのマーケティング戦略を統括しています。
ここ数年でのマーケティング業界における大きな変化として、モーゲンセン氏は「チャネルとプラットフォームの急増」を挙げます。これに伴い、必要なクリエイティブの数も大幅に増えたと指摘します。
「かつて私が BMW のマーケティングを担当していた頃は、15 〜 20 個程度のクリエイティブアセットを作成すればよかったのに対し、現在ではプラットフォームごとに数百、数千、あるいは AI を使って無限とも言える数のクリエイティブを作るようになっています。しかも、それぞれのプラットフォームに最適化したクリエイティブでなければ、十分な効果は得られません」とモーゲンセン氏。結果として、マーケティングの複雑性が高まっていると述べています。
チャネルやプラットフォームが多様化したことで、それら全体から得られるデータを集約し、誰にどのような頻度でリーチできたのか、キャンペーンのインパクトはどれほどだったのかを把握し、チャネル横断で最適化していくことも難しくなっていると話します。
またモーゲンセン氏いわく、測定には「科学的な分析」と「信念」の両方が必要です。すべてを定量化できるわけではないとしつつも、キャンペーンの実施前、実施中、実施後それぞれのタイミングでできる限り指標を確認し、効果を理解しようと努力をしていると述べました。
このように、マーケティング業界はオーディエンスとプラットフォームの細分化・急増により、クリエイティブ戦略、実行、そして測定のあらゆる側面で複雑さを増しています。モーゲンセン氏は、こうした状況にどう対応していくかが現代のマーケターにとって重要な課題であるとの認識を示しました。
台湾の外食文化、フランスの手料理文化など地域性に合わせたビジネス
グローバルのマーケティングを統括するモーゲンセン氏は、米国だけでなく、世界各地における Uber のビジネスを見る立場にあります。その中で、地域によって Uber の認識や理解のされ方に違いがあると話します。
「Uber はテック企業ですが、物理的な世界に根差しています。そのため、たとえば Google のような、どこの国でもほぼ同じサービスを提供している企業とは事情が異なります」
実際、中南米の一部の地域では、バイク配車オプションの「Uber Moto」が人気です。交通渋滞のひどいブラジルのサンパウロでは、通常の四輪車では難しい方法で渋滞を通り抜けられるため重宝されています。一方で、米国ではバイクでの配車サービスに対して文化的になじみが薄く、現在もサービスは展開されていません。
Uber Eats においても、サービスに対する文化的な受容度は国によって大きく異なります。台湾ではフードデリバリーが非常に一般的で、人々は月に 15 〜 20 回もデリバリーを利用します。台湾の人々にとって、それが日常的な食事の一部となっているのです。対照的に、フランスでは「自分で料理を作る」ことが文化的に重んじられており、フードデリバリーサービスの利用には抵抗感が根強く残っています。
モーゲンセン氏は、こうした文化的な違いに対応するために Uber が取っている方針を次のように説明します。
「ブランドの統一感を保ちながら、地域ごとの文化やニーズに合わせた柔軟なマーケティングアプローチが必要です。どこでアプリを開いても一貫した体験を提供しつつ、各市場の特性に最適なメッセージや手法を取り入れることで、グローバルブランドとしての存在感を高めています」
グローバルなブランド戦略を軸にしつつ、各地域でローカライズしたアプローチを展開する。これが Uber のマーケティング戦略の核になっているのです。
前半のエピソードは、モーゲンセン氏が現代のマーケティング責任者として抱える問題意識を、後半のエピソードは、Uber という物理的なグローバルサービスをどのようにブランディングしていくか、成長させていくかという事業戦略の大きな方針を示したものです。動画では他にも、日々の数値目標へのプレッシャーの中で短期的な成果と長期的なブランド構築をいかに両立させるかについて、インフルエンサーをマーケティングに起用する際の独自の視点などについても話しています。