YouTube を活用してビジネス目標を達成した広告を表彰するアワード「YouTube Works Awards Japan」は、2024 年で 4 回目の開催となりました。
今年はショート動画の普及を受けて新設した「Best Shorts Ads 部門」など全 7 部門で審査。2023 年度に国内で展開したキャンペーンから応募を受け付け、各部門賞とグランプリを決定しました。この記事では、受賞作品の背景にあるマーケティング課題から、YouTube 広告を活用したコミュニケーション戦略まで紹介します。
YouTube 広告ならではの強みを活かしたコミュニケーション設計やクリエイティブ制作のコツが詰まっています。
- ABJ:Creative Effectiveness 部門
- NTTドコモ:Action Driver 部門
- 日清食品冷凍:Best Sales Lift 部門
- MIXI:Best Brand Lift 部門
- サントリーホールディングス:Best Shorts Ads 部門
- オリックス不動産:Breakthrough Advertiser 部門
- セイバン:Force for Good 部門
海賊版を「やめよう」ではなく、正規版の読者に「ありがとう」を —— ABJ『ありがとう、君の漫画愛。』:グランプリ、Creative Effectiveness 部門
YouTube Works Awards Japan 2024 のグランプリは、Creative Effectiveness 部門で部門賞を受賞した一般社団法人ABJ の『ありがとう、君の漫画愛。』です。
同部門では、多様化する生活者のインサイトを捉え、YouTube 広告を活用して視聴者の共感や議論を生み出すことでビジネス目標を達成した作品を表彰します。
電子書籍の正規配信サービスを推進する ABJ は例年、海賊版の読者に向けたキャンペーンを展開してきました。2023 年のキャンペーンでは、実は漫画読者のうち海賊版読者は少数派、逆に正規版の読者のほうが多数派であることに着目。海賊版読者に「やめよう」と伝えるのではなく、正規の読者に「ありがとう」を伝えるポジティブな啓発活動を展開しました。そうした読者の存在を可視化して多数派であることを示すことで、海賊版の抑止につなげようと考えたのです。
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本キャンペーンでは、漫画愛好家であるアーティストの Vaundy 氏と楽曲を制作。61 作品の漫画のセリフやコマから歌詞を構成し、正規版読者へ感謝を伝えるミュージックビデオ(MV)を公開しました。そして動画の最後では「#今日も海賊版を読みませんでした」のハッシュタグとともに X への投稿を呼び掛けたのです。
YouTube の TrueView インストリーム広告での配信を起点に SNS 上でも拡散。さらにハッシュタグ付きで投稿すると、動画に登場したさまざまな漫画のキャラクターから自動で「ありがとう」と返事が来る仕組みを作ることで、さらなる拡散を図りました。
結果的に、前年度の X でのキャンペーン投稿と比べて、投稿のいいねは約 280 倍(3.9 万件)、リポストは約 190 倍(1.5 万件)でした。
今回は MV という形式を採用したのもポイントで、正規版の読者に対して、広告としてではなく音楽として特別な体験を提供することで、感謝を示すとともにコンテンツとしての波及を狙いました。
動画の公開から 1 カ月で、YouTube と X 上での視聴回数は合計 1,000 万回を突破。応募時(2024 年 2 月時)では同 4,500 万回を超えています。
視聴回数もさることながら、キャンペーンへの反応も非常に好意的で、同じく応募時の YouTube 動画の高評価数は 1.9 万。400 件超のコメントも大半がポジティブな意見でした。X 上でも「大好きな漫画を守っていきたい」といった意見が次々と寄せられ、漫画家たちも海賊版への思いを続々と投稿するなど、話題を集めました。
こうした盛り上がりを受けて、報道番組が特集を組んだり、さらには G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合で動画が上映されたりと、社会全体で海賊版について改めて考えるきっかけを生みました。
本アワードの審査では「ネガが広がりやすい時代にポジが広がっていくコミュニケーションが秀逸」といった意見や、また動画だけで終わらせず、投稿欄で会話を促したりハッシュタグをうまく活用したりと「ソーシャルメディアとしての YouTube」をフル活用した点も評価を集めました。
AI 活用で 3 カ月に 105 本の動画制作、PDCA を回し続けた NTTドコモ:Action Driver 部門
生活者の意思決定を後押しし、行動を促すことでビジネス目標を達成したキャンペーンを表彰する「Action Driver 部門」。受賞したのは、株式会社NTTドコモの『爆アゲセレクション』です。
爆アゲセレクションは、NTTドコモの大容量プランの契約者が各種ビデオオンデマンド(VOD)サービスを利用した場合にポイントを還元するサービス。キャリアの乗り換え抑止や、低容量プランの契約者のアップセルを狙いました。
当初テレビ CM で広く認知を獲得できたものの、プラン自体が複雑であること、VOD のパートナーも多いことから、2 本のテレビ CM で全視聴者をカバーする既存のやり方では最終的な申し込み数は伸び悩んでいました。そこで、配信先をより細かく指定できる YouTube 広告に予算を配分し、複雑なサービスを理解してもらえるようランディングページ(LP)への誘導を図ったのです。
この事例の特徴が、AI ツールと人間の企画力や創造性のコラボレーションです。効果的な広告クリエイティブの共通項を洗い出すために、株式会社サイバーエージェントの「極予測AI」を採用。顧客セグメントごとに約 160 本の既存動画を AI に学習させ、色合いやレイアウト、構図、カット割りに至るまでポイントを抽出し、それを基に撮影や制作を行いました。
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動画はある物語の一幕から始まり、開始 3 秒ほどのところで「動画の途中ですが、みなさんにお知らせです」のテキストとともにサービス説明に移るという構成です。
今回は冒頭のシーンを複数のジャンルで制作。Google のアフィニティ セグメントを利用し、アクションやラブロマンス、アニメなど、セグメントごとに内容を変えて制作しました。
制作した動画は計 105 本に上りましたが、制作期間はわずか 3 カ月ほど。事前にさまざまな動画素材を撮影し、最適な組み合わせを AI で予測することで、効率化を図りました。
AI による効率化だけでなく、人の手で PDCA を回し続けたのもこのキャンペーンのポイントです。効果の悪い動画は配信を停止し、定期的に改善した動画を新規入稿することで、時間とともにキャンペーン全体の効果を高めていきました。
実際に審査でも「視聴者の行動属性に合わせて広告を出し分けているため、広告の効率を高めながら、結果的に幅広い層へ訴求できている」点が高い評価を獲得。また AI と人間のコラボについて「AI をどう活用し、人間がどんな付加価値を提供するのか。今後のテクノロジーの発達に伴う役割の変化も考えさせられた」との声もあがりました。
2 回に分けて 3 カ月間ずつ広告を配信した結果、キャンペーン前と比べてクリック率(CTR)は 216% 増、クリック単価(CPC)は 4 分の 1 に 改善。また LP からの申し込み数はキャンペーンを開始した 2023 年 8 月からの 2 カ月間で 130% 増加と、効率を大幅に高めながら、視聴者の行動を促しました。
30 代 〜 40 代女性に絞ったクリエイティブで、店頭シェア 1 位の日清食品冷凍:Best Sales Lift 部門
売上拡大に貢献したキャンペーンを表彰する「Best Sales Lift 部門」を受賞したのは、日清食品冷凍株式会社の『味覚・三角関係ラブストーリー『麺ジャラス・ラブ』』です。
同社が全国のセブン-イレブンで新たに発売した、一風堂トムヤムクン豚骨ヌードルの認知拡大を目的としたキャンペーンです。
限られた予算の中で広告費用対効果(ROAS)を高めるために、対象セグメントを 30 代 ~ 40 代の女性に設定。少女漫画の恋愛ストーリー仕立ての動画を制作しました。
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動画では、2 つのスープを「一風堂すする君」と「トムヤム君」として擬人化。“ 女性の舌を奪い合う味覚の三角関係ラブストーリー ” で、女性の共感を得るとともに、商品理解が進む設計に。30 代 ~ 40 代の女性に人気の声優を起用し、そのファンも巻き込みながらリーチを拡大しました。
3 分弱と長尺の TrueView インストリーム広告を通じて、テレビ CM では表現できないより深い商品理解や強い興味喚起を図った結果、視聴者の 50% 以上がスキップせず、完全視聴率も 25% 以上と非常に良い結果でした。
売り上げへつながる動きも現れました。調査によると、30 代 〜 40 代女性がセブン-イレブンで購入した商品の中でシェア第 1 位を獲得(*1)。狙い通りの効果を上げました。
Best Sales Lift 部門では、審査基準の 1 つとして「三方よし」であること、つまり視聴者、クリエイター、企業のすべてにとって利益になることを掲げていました。その点でこの作品は「視聴者を引き込むクリエイティブと商品訴求を高いレベルで両立させ、クリエイターの熱量とスキルを十分発揮し、成果につなげた」ことが受賞の決め手の 1 つとなりました。
また「B to B to Cという広告結果が売り上げに直結しないビジネスモデルでも、売り上げにつながる動きを作った」点も高く評価されました。
MIXI のスマホゲーム「モンスト」、若年層の未プレイユーザーの態度変容を実現:Best Brand Lift 部門
ブランドや商品の認知や比較検討、検索数、好意度などのブランドリフトに貢献したキャンペーンを表彰する「Best Brand Lift 部門」。受賞したのは、株式会社MIXI の『ホントにあった#俺たちのモンストーリー』です。
同社のスマホゲーム「モンスターストライク」(モンスト)はすでに高い認知を獲得していましたが、その反面ゲーム内容の理解度が高くないことに課題を抱えていました。そこで、モンストをプレイしたことがない若年層に対して好意的なブランドイメージを持ってもらうことをゴールに設定。そうすることで、直接的な販促施策を展開した際に、効率的に新規ユーザーの獲得につなげようと考えたのです。
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クリエイティブの制作にあたってはまず、ユーザーからモンストにまつわるエピソードを募集。応募された実話を基に演出で肉付けしました。Best Brand Lift 部門では審査指針の 1 つとして「事前に生活者の行動を理解・想定し、寄り添えているか」を挙げていましたが、本作品はまさにこの点を押さえています。
クリエイティブの制作、配信にあたっては前年の結果を踏襲しました。2022 年は 40 秒 〜 50 秒程度のクリエイティブが中心でしたが、2023 年は若年層の視聴態度に合わせて 15 秒の短尺を中心に。また前年は、配信本数が特定の期間に集中し認知が偏ってしまっていたため、今回は配信を年 3 回に分け、期間内の配信本数も絞り込みました。
TrueView インストリーム広告の他、TrueView リーチ広告や動画リーチ キャンペーンなどさまざまな広告フォーマットを活用しながら、若年層へのリーチ最大化とフリークエンシーコントロールによる効果的な態度変容(好感度向上)を図りました。
第三者調査パネルでの調査結果によると、モンストをプレイしたことがない 15 歳 ~ 24 歳の CM 好感度は 1.6 ~1 .7 倍、利用意向は 1.4 ~ 1.7 倍を達成(いずれも KPI 比)しました。
審査では「定型のゲームの広告ではなく、実際のエピソードに基づいた新しい表現に挑戦し、ユーザーの行動を促せている」ことや、さらには「ゲーム初心者にも悪いイメージを与えることなく、ソーシャルゲーム自体の社会的地位を上げた」ことが高く評価されました。
ショート動画を通じて、「古い飲み物」だった烏龍茶を Z 世代に訴求、サントリーホールディングス:Best Shorts Ads 部門
YouTube ショートの特性を活かして高いマーケティング効果を獲得したキャンペーンを表彰する「Best Shorts Ads 部門」サントリーホールディングス株式会社の『ガチ中華クリエイターCM』が受賞しました。
同社の「サントリー烏龍茶」は発売から 40 年以上が経っており、Z 世代にとって古めかしい飲み物になっていることを課題と捉えていました。「おなかの脂肪を減らす」という烏龍茶の機能を現在のトレンドとつなげて訴求することで、若年層にも商品を買ってもらうきっかけ作りが必要だったのです。
そこで活用したのが YouTube ショートです。2023 年 5 月時点で、国内の Z 世代(18 歳 〜 24 歳)の 70% が YouTube ショートを利用する(*2)など、特に Z 世代に浸透している媒体としてこれを選びました。
ショート動画を中心に、本格的な中華料理をダイナミックに作りあげる「ガチ中華」動画が人気を集めていたことを受け、これをクリエイティブに取り入れました。
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「いかに演出感をなくし本場の動画に近づけるか」を大切にしたかったため、ガチ中華動画を制作していた 4 人のクリエイターから既存の素材を提供してもらい、キャッチコピーや商品写真、音楽を足すだけというシンプルな構成で、縦型のショート動画を制作。あえて企業ロゴや商品カットが動画の冒頭に登場しない構成にすることで、普段ショート動画を流し見するように広告を見てもらえるように工夫しました。
同社の烏龍茶ブランドでは縦型クリエイティブに特化したのは初めての試みでしたが、リーチ数は 1,200 万以上、視聴完了数は 310 万回以上といずれも KPI を達成。特に TrueView インストリーム広告の視聴完了率は 70% と高く、SNS 上では「天才」「好き」など広告に対する好意的な意見に加え、購買意向につながるようなコメントも多数寄せられました。
審査では「YouTube ショートの特性と広告効果を両立させたシンボリックな事例」として、特に「言葉がなくても伝わる動画」である点が高評価を集めました。
「スキップできない」を逆手に、癒やしを提供したオリックス不動産:Breakthrough Advertiser 部門
YouTube 広告に関する蓄積された実績や知見がない中でも果敢に挑戦し、戦略的な広告活用でビジネス目標を達成した作品を表彰する「Breakthrough Advertiser 部門」。受賞したのは、オリックス不動産株式会社が展開した、すみだ水族館と京都水族館のキャンペーン『どうせスキップできない広告ならペンギンの話』です。
両館のビジョンは「大切な人と過ごす時間の価値を上げる水族館」「地域の中で人が集う公園のような水族館」です。それを目指して、他とは一味違う生き物の捉え方や打ち出し方に取り組んできました。その一環として 2018 年から始めたのが、飼育しているペンギン同士の関係性を表した「ペンギン相関図」です。
今回のキャンペーンの目的は、6 年目となる両館のペンギン相関図の認知層拡大と、既存ファン層への話題の提供。2023 年 12 月から翌年 1 月までの約 1 カ月のキャンペーンを展開しました。
ペンギンにまつわる話は、日常生活やビジネスシーンで有用な情報ではありませんが、情報過多な社会で癒やされるという点では多くの人が渇望しているはずだという仮説を構築。あえて多少のストレスが感じられるスキップ不可の YouTube 広告へ出稿し、そのストレスを逆転させることで、ブランド好意度を高めることができるのではないかと考えました。
動画はこちら
両水族館とも 3 本ずつの動画を制作。冒頭から「どうせスキップできないならペンギン」という言葉とともに、ゆったりとした物語調でペンギンたちのストーリーをシンプルかつ上質なトーンで提示できるコンテンツにしました。
SNS 上では「YouTube の広告ぜんぶこれになってほしい」など多くの好意的なコメントが寄せられ、実際に来館したり、相関図のサイトを訪れたりといった報告も多数見受けられました。
KPI 比で見ると、クリック数が 51% 上回ったのをはじめ、表示回数や視聴数、視聴完了数も10% ~ 30% 程度上回るなど、想定以上の結果となりました。
「ノンスキッパブルを逆手に取って見事に癒やしに変え、『続きが見たい』『水族館に行きたい』という行動変容につなげた総合力に優れた作品」として、審査員からも高い評価を受けました。
世論を盛り上げ、こども家庭庁での二次利用にもつながったセイバン「ランドセル選びドキュメンタリー」:Force for Good 部門
収益やビジネスインパクトを超えて自社のブランドパーパスを表現し、社会的意義のあるコミュニケーションを展開したキャンペーンを表彰する「Force for Good 部門」。ランドセルメーカーであるセイバンの『ランドセル選びドキュメンタリー』が受賞しました。
ランドセルは近年、カラーやデザインが豊富になる反面、保護者が社会的な規範や期待、見栄に基づいて選択する傾向が強くなっています。同社が 2023 年春に調査したところ、子供の意思だけでランドセルを選ぶ家庭はわずか 23% にとどまっていました。
セイバンはランドセルの選択に、子ども自身が主体的に関わることが本人の成長を促すと考え、「キミが好きなの、キミが選ぼう。」という新しいブランドメッセージを策定。ランドセル選びの主体は子どもであることを保護者に訴求しました。
動画はこちら
家族 7 組によるランドセル選びの様子を、5 分弱のドキュメンタリー動画として制作。ランドセルメーカー各社が翌年の小学校入学生向けの情報解禁を行う 2 月に公開、配信しました。
公開初期は、約 30 秒の予告編を動画アクションキャンペーンで配信し、長尺動画に誘導。視聴者からの好意的な声が SNS 上で投稿されたことを受け、次に YouTube 動画が話題であるということを切り口に PR を活性化。テレビ番組でも取り上げられるなど注目を集め、それがまた YouTube 視聴につながるという好循環を生みました。
YouTube のコメント欄には 500 を超える前向きなコメントがあふれたほか、SNS にも動画が二次拡散され、X では 400 万回超の再生、TikTok では 50 万超のいいねを獲得。広告費に換算すると、トータル 6 億円以上の PR 効果をもたらしました。結果的にブランド好意度は 10% 増加し、購入検討者数も 12% 増加しました。
また、こども家庭庁から動画の二次使用のオファーもありそれを快諾。現在は日本各地での子育て支援イベントで上映されるなど、広告の枠を超えて世の中を巻き込み、さまざまな気づきを生み出し続けるキャンペーンとなりました。
審査では「ドキュメンタリーなのに、3 度展開する構成に驚きがあり、気づきも深い」などクリエイティブへの評価のほか、「『好きを尊重すること』は、子供を持たない人も含め多くの日本人が自分ごと化できるテーマ。このテーマ設定も広く話題になった一因ではないか」とする声も挙がっていました。
以上、グランプリと部門賞を受賞した 7 作品を紹介しました。
取り上げた受賞作を含むファイナリスト 50 作品は、以下の PDF に掲載しています。キャンペーンの背景にある課題から、YouTube 広告を活用した狙いやそれを生かしたコミュニケーション戦略、実際の成果まで、詳細をまとめたので、広告の設計やクリエイティブ制作に活用してみてください。
ファイナリスト 50 作品の PDF はこちらから