YouTube 広告をやりきるとどうなるか? 「リーチ力の可能性」を検証する

池田 奈津子 / 2020年9月

動画メディアのデジタル化が進んでいます。YouTube の毎月のログインユーザー数は、世界で 20 億人を突破(*1)。1 日あたりの動画視聴時間は 10 億時間を超え、視聴回数は数十億回に上ります。日本では 2019 年 6 月段階で 170 以上のチャンネルが登録者数 100 万人を超えており、前年に比べ 80% の増加(*2)でした。

YouTube を楽しむデバイスにも変化が出てきました。これまではスマホやタブレット、PC が大半でしたが、近年はテレビでの視聴も増加。特に日本では、テレビ画面を通じての視聴がその他の視聴デバイスよりも大きく伸び、2019 年は前年比 70% 増(*3)でした。スマホやタブレット、PC と異なり、テレビで視聴するときは、家族やパートナー同士、子供と一緒、というように、複数人で楽しんでいるようです。

チャンネル登録者も増加し、スマホや PC だけでなくテレビによるタッチポイントも加わった YouTube は多くの生活シーンにメッセージを届けられるポテンシャルがあると言えそうです。

動画メディアのデジタル化、広告はついていけているか?

そうは言っても広告業界では、今もまだ「テレビのリーチを超える広告メディアは存在しないのでは?」という議論が聞こえてきます。Google が提供する製品やサービスの広告プランニングとメディア戦略を担う Google Media Lab チームで、「広告主」としてメディアプランニングのサポートやナレッジの蓄積を担当する筆者の立場ではありましたが、無意識にそうした考えを持っていました。

多くの企業では、ブランドの認知度向上などを目的としたキャンペーンを行うに当たり、まずはテレビ主体でプランニングし、残りの予算をデジタル広告に配分しているのが実情ではないでしょうか。動画広告のクリエイティブについても同様です。例えば、まずはテレビ用に 30 秒のストーリーボードを作り、そこから 動画広告用のものを切り出すなど、多くの場合、テレビに合わせてクリエイティブを制作しています。

しかし、人々が視聴するメディアもデジタル化が進む中、現在のメディア配分やクリエイティブ制作は、そうした変化に沿ったものになっているでしょうか。デジタル主体のマーケティングにより、さらに多くの届けたい人にメッセージを届けられる余地も残されているかもしれません。そこで Google の Media Lab チーム ではデジタルマーケティングの新たな可能性を見つけるため、自社をテストケースとして、テレビと YouTube に広告を出稿。リサーチマネージャーが客観的な指標を基に両者を細かく比較し、それぞれのターゲットリーチ(*4)力を検証しました。

「期間」「エリア」「ターゲット」「出稿量」「予算」を同規模で、テレビ CM と YouTube 広告を検証した

検証のためのテストを実施した時期は 2019 年下半期。「期間」「エリア」「ターゲット」「出稿量」「予算」などそれぞれ比較するのに適切な条件下で、広告を配信しました。

具体的には、1 週目にテレビ CM を出稿し、2 週目はテレビ CMと同規模のターゲット視聴率(TRP(*5))で YouTube 広告をプランニング。1 週目と 2 週目の結果を比較します。

このテストを計 4 回実施(詳細は下図を参照)。いずれも、Google の通常の広告キャンペーンの一環として実施しました。

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検証は、調査会社インテージの「TV × YouTubeクロスメディアリーチレポート」を使用し、その効果を測定しました。このレポートでは、インテージのテレビ CM 接触率データと、Google のデータを組み合わせ、テレビと YouTube のクロスメディアでキャンペーンのリーチを精微に把握できます。

検証では YouTube 広告が“テレビ離れ”の顧客へも到達、スピードも想定以上

結果サマリー

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(*6)

配信結果を見ると、まずテレビと YouTube 全体で、ターゲットに対して 65.5% から 77.8% のリーチを獲得できました。うち YouTube 単体のリーチ寄与分は 65.2% から 75.3% で、テレビ単体のリーチと比較して同レベルかそれ以上(1.1 〜 1.4 倍)のリーチを獲得できています(上図左)。一般的にテレビのリーチの補完としてデジタル広告で獲得できるリーチを「インクリメンタルリーチ(純増リーチ)」と表現されることが多くありましたが、重複リーチを除いたテレビ単体の寄与分が 24.6% から 34.8% だったことを考えると、むしろ検証対象の広告キャンペーンではテレビが補完だったと言えるでしょう。

また、すべてのテストにおいて、テスト初日から YouTube のほうがテレビより早くリーチを獲得(上図右)。想定以上のスピード感で、キャンペーンの素早い立ち上がりを実現しました。

今回YouTube 広告のリーチを最大化できた要因とは

今回の調査では、エリアを問わず、18 歳から 49 歳までの幅広い年齢層に対するリーチで YouTube がテレビを上回っていました。その中で、例えば「関東エリアの若年層(男女 18 〜 34 歳)」に対しては 15 秒の広告素材のみでも十分にリーチが取れましたが、幅広い層に向けて広告を配信したテストでは、15 秒と 6 秒広告素材の併用が非常に効果的でした。6 秒の「バンパー広告」は、YouTube で幅広い広告枠へ掲載できるため、15 秒の動画広告と併用することで、さらなるリーチにつながったのです。

また、今回は YouTube の事前予約可能な広告を最大限に活用。事前に予約することで、一部の広告枠でインプレッション単価(CPM)や期間を固定して配信したり、人気のチャンネルや視認性の高い枠へ配信したりできます。リアルタイムに広告枠を確保しなければならない「運用型広告」の比率を極力低くし、事前予約可能な広告を最大限に活用したことで、期間中の広告配信枠を切らさず、1 週間という短期間でも広くリーチを獲得できました。

さらに、YouTube の「フリークエンシーキャップ」機能もリーチの最大化に効果的でした。テスト期間中に 1 人あたりの広告接触回数を制限して、多くの人により効率的に広告を届けられたのです。

既存のやり方に捉われず、生活者のメディア接触に合わせた投資配分を

エリアや年齢を限定してはいるものの、今回のテストで、YouTube のほうがテレビよりも多くの人に、そして早くリーチできる可能性があることがわかりました。YouTube 単体で大きな成果を期待できることがわかったのです。これは私たちチームにとっても驚きの結果でした。

広告開始初日から素早くキャンペーンを立ち上げることが可能で、テレビ離れした層にもメッセージを届けられる──この結果は、YouTube がデジタルマーケティングには欠かせない存在になり得ることを印象づけられたと思います。

過去のデータから導き出すプランニングツールは、精緻なシミュレーションができる一方で、これまでになかったような振り切ったプランニングが出にくいという側面があります。そのため、思い切ったデジタルシフトをするには、今回のように直近のデータもしっかり把握し、キャンペーンの目的に応じた媒体選定や予算配分をしていくことが重要です。

今後 Media Lab チーム では、テレビと YouTube におけるブランド認知向上や売上への貢献を比較するテストを予定しています。リーチの量やスピードだけではなく、効果を検証することで、デジタル時代の動画広告における最適なメディアミックス(出稿するメディアの組み合わせ)を Google のマーケティング活動として自ら実践し、広告業界に新たな視点を提言していきたいと考えています。

Contributor:
マーケティングリサーチマネジャー ミン・グエン 

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