2023 年の夏は、外出を楽しむ人が増えました。
同年 5 月に新型コロナウイルス感染症が「5 類」に分類変更されて以降初のお盆休み期間(8 月 11 日 ~ 16 日)に実施した人流調査では、全都道府県の主要 47 駅のうち 57% で、感染拡大前の 2019 年を上回る人出が確認されました(*1)。
そんな中で自治体として、コロナ禍以前を超える水準に戻ってきた人流に適切に対応するという新たな課題に直面していました。
今回は、 2023 年の京都府亀岡市での花火大会を例に、デジタルツールを活用した課題への取り組みを紹介します。
2022 年開催時は安全面に懸念、全席有料チケット制で課題解決
毎年夏に亀岡市で開催している実行委員会主催の「保津川市民花火大会」は例年 10 万人ほどが訪れるイベントです。
2020 年以降はコロナ禍で休止していましたが、2022 年に 3 年ぶりに再開しました。しかし同年の花火大会では、交通機関の乱れにより、終了後に多くの人が最寄り駅に殺到し、事故発生のリスクが高い状態を招いてしまいました。
2023 年はさらなる人流の回復が予想できたことから、観客の安全性を確保するため、全席有料チケット制に。無料の観覧ゾーンを廃止し、警備体制も充実させることで、人流を適切にコントロールしようと試みました。
これに伴い必要な警備費用は前年から大幅に増加。大会運営上、用意した有料チケット 25,000 席分の完売が必要でした。
有料の席数が 2022 年開催時(8,000 席)から大幅に増えた中で、全席有料チケット制を周知し、完売を達成するには、プロモーションに工夫が必要なのは明らかでした。
これまで自治体が関わる事業の多くは、業務がそれぞれの部署で完結している場合もあり、プロモーション戦略もその延長線にありました。そのため、部署を超えた連係とプロモーションに関する意識に差があったのです。
そこで今回は広報プロモーション課から、花火大会を担当する商工観光課などへ働きかけ、意識を共有。2022 年開催時のデータを基に、課題と方向性を整理しました。
前年の販売データやサイトアクセスを分析、プロモーションの方向性を決定
2022 年のチケット販売データを分析すると、チケットの購入の時期に偏りがありました。開催が近づく 8 月、特に開催 1 週間前から当日にかけて集中していたのです。
Web サイトへのアクセス数も 8 月に偏っていたことから、事前の購入を促すためにはより早い段階から、最適なタイミングで周知を図る必要があると考えました。
そこで活用したのが、Google 広告の「P-MAX キャンペーン」でした。これは単体のキャンペーンで、検索や YouTube、ディスプレイなどあらゆる Google サービスへ横断的に広告を配信できるプロダクトです。
当初は、検索広告や YouTube 広告などを併用しようと考えていましたが、2022 年の開催時はデジタル広告の活用実績がなかったこともあり、最も成果につながる予算配分を決めかねていました。そこで Google 広告の担当者にアドバイスをもらいながら、Google AI を活用することで複数の配信面を横断して予算配分やクリエイティブを自動で最適化できる P-MAX キャンペーンの導入を決めたのです。デジタル広告予算の 8 割を P-MAX キャンペーンにあて、そのほか各種 SNS 広告も活用しました。
実際の配信にあたっては「タグ マネージャー」を活用し、Web サイトの「有料観覧席の案内ページ」「チケットの購入ページ」「コンビニ購入方法紹介ページ」の 3 つのコンバージョンポイントを設定しました。
チケットの売れ行きが、開催直前の 8 月に集中した 2022 年の反省を踏まえて、今回は 7 月 1 日のチケット発売開始からプロモーションを開始。その後、プログラム内容が固まり始めた 7 月中旬、そしてプログラムが固まる 8 月初旬と、段階的にプロモーションの山場を作りながら、戦略的に事前のチケット購入につなげていきました。
前日までにチケットは完売、Google 広告の CVR は他媒体の 4.5 倍
プロモーションは功を奏し、オンライン販売分の有料チケットは、前日までに完売しました(*2)。
とりわけ Google 広告は、各 SNS 広告と比べて 4.5 倍のコンバージョン率を達成。サイトのアクセス時期を見ても、2022 年は 7 月のアクセス数が総アクセスの 35.6% にとどまっていたのに対して、2023年は 53.9% と、狙い通り早期からの周知で成果を上げられました。
また事前チケットの売り上げは、当日の人流整備にかかる費用に当てるなど、狙い通り安全確保に向けて良い循環を生み出すことができました。
一連の取り組みでは、P-MAX キャンペーンを始めとしたデジタル広告、ツールの活用が効果を発揮しましたが、それを活用できたのは、最初に、部署を超えてデータを整理し、課題とゴールに向けた目線を共有できたことが大きかったと考えています。
また花火大会のようなリアルなイベントでも、データを分析し、オンラインプロモーションに力を入れたことで結果を出せたことも大きな成果です。
今回得られたデータや整備した基盤をベースに、さらにデータドリブンな意思決定を進められるよう、改善を進めていきたいと考えています。
Contributor:眞里谷 努(広報プロモーション課 副課長)/ 田滝 未奈子(広報プロモーション課 デジタルマーケティング担当)/ 吉田 琢人(商工観光課 保津川市民花火大会担当)