YouTube 広告を活用した国内向けのキャンペーンを対象とした広告賞「YouTube Works Awards Japan 2023」。今年は 8 部門で各部門賞を審査し、最も優れたキャンペーンをグランプリとして選出しました。
最終審査を務めたのは、マーケターやクリエイティブディレクター、YouTube クリエイターなど総勢 12 人です。審査員長はクリエイター集団の(つづく)でクリエーティブ ディレクターを務める細川美和子氏と、YouTube クリエイター「コムドット」のやまと氏が務めました。広告関係者 60 人以上による 1 次審査で選ばれたファイナリスト作品を審査し、受賞作品を決定しました。
今回、業界を問わず集まった審査員たちにインタビューを行い、それぞれの視点から、YouTube 広告の活用法や、ユーザーにとっての YouTube をどう捉えているかを聞きました。2 日間の審査を通じて数多くの YouTube 広告に触れる中で、審査員たちが新たに発見、再確認した「YouTube らしさを活かす広告戦略」をインタビューから読み解きます。
YouTube では「ユーザーの毎日が豊かになる」出会いを作れる
まず審査員に聞いたのは、「ユーザーにとっての YouTube」について。YouTube をどのようなメディアと位置付けているのでしょうか。
審査員長の細川氏は、ユーザーにとっての YouTube を次のように話します。
「YouTube は(メッセージを)届けたい人に届けられる媒体だと思いますが、それは企業や作り手にとってありがたいだけではなくて、自分も含めたユーザーにとってもメリットがあるものだと思っています。出会ったことで考え方が変わったり、その後の毎日がちょっと豊かになったり、大事な情報に触れる機会が増えます」
だからこそ作り手として、「ユーザーにとって本当にいい情報、いいクリエイティブを通じて、企業とユーザーとの良い出会いや接点を作りたい」とも話しました。
また YouTube の特徴として自由度の高さを挙げたのが、株式会社サイバーエージェントの淵之上弘氏(インターネット広告事業本部 統括)です。自身も「料理や DIY などまず YouTube で検索するという習慣ができてきている」と話す淵之上氏は次のように話します。
「YouTube では(お茶の間での)視聴率や万人ウケを狙う必要がないので、本当に好きなものや興味があるものを、数えきれないコンテンツの中から、時間や場所から解放された状態で自由に見ることができます。それを知り合いにシェアしたり、コメントしたりもできる、非常に自由度が高いメディアだと感じます」
ニッチなニーズであっても、それを受け取ってくれる人が存在するユーザーや興味関心の懐の広さは YouTube の魅力の 1 つです。だからこそ生まれるコンテンツの多様性が、時間や場所を選ばないユーザーの視聴態度とも相まって、自由度の高さを生んでいると言えそうです。
ユーザーの視聴理由は千差万別、広告もその流れに逆らわないこと
では、こうした YouTube の特性を最大限活かしたキャンペーンを設計するために、企業やマーケターはどのような点を工夫すれば良いでしょうか。
細川氏は「YouTube はテレビ以上に、人々が目的を持って見ているということに、より想像力を働かせることが大切です」とコメント。
その上で、「YouTube は、人々が知りたいことや大好きなこと、興味があることをすごく能動的に見ている媒体なので、そこにお邪魔する時には、やはりその人の興味に寄り添って、研究して広告をつくるべき」だと話してくれました。
レノボ・ジャパン合同会社 CMO のリュウ・シーチャウ氏も、YouTube という媒体を理解し、広告表現も、媒体の流れに逆らわず「不自然にならない」ことが大切だと話します。
「広告が不自然に入ってくると、視聴者は結局宣伝だなと思ってしまいます。自社の広告活動で YouTube を使いたいのであれば、まずは YouTube というメディアを理解することが大事ですし、もし理解できないなら口を出さないとか、わかっている人に決めてもらうなど、思い切った判断も大切だと思います」
「一発で良いもの」は必要ない、ユーザー評価を起点に PDCA を回すことが大切
このように、人々が自分の関心や目的意識を持って視聴している YouTube だからこそ、広告でも「目的意識が大切になる」と指摘するのが、株式会社博報堂の小島翔太氏(クリエイティブディレクター )です。
「今回の応募作品を見ても、長尺や早回し、ミュージックビデオ風など表現が多様化していました。それはつまり、ユーザー一人ひとりにとって、動画を見ている目的が全然違うということだと思うんです。ですから、広告を作る際にも目的意識がとても大事になると思いますし、その目的によって正解の表現が変わってきます。これまでのメディアにおけるクリエイティブとは、作り方から変わるなと思いました」
売り上げの拡大や、認知獲得、Web サイトへの誘導など、企業の課題や目的に合わせたキャンペーン設計と、同時に生活者の視聴目的を満たす広告フォーマットの選択やクリエイティブ表現が大切になってきています。
その上で、当初の狙い通りの効果を上げられているかをタイムリーに確認できるのも、デジタル媒体である YouTube 広告の強みの 1 つです。サイバーエージェントの淵之上氏は、広告のプランニングにおいて必要なマインドセットをこのように話します。
「YouTube 広告においては KPI を設計することが非常に重要だろうと思います。Web メディアであることの最大の強みは、数字が見えるということと、トライアルアンドエラーが可能であること、PDCA を高速で回せること。『一発で良いものを』というよりは、複数をパターン用意して、世間の反応を確かめてみては」
また仮に予想が外れていたとしても、「ユーザーが評価したものがいいものである」と別案にすぐ切り替えて、評価が高かったものを採用していくといった臨機応変さを持つことも大切だと言います。
「クリエイターの理解が、視聴者の理解にもつながる」広告と YouTube クリエイターとの関係性
YouTube クリエイターとして、日々ユーザーに動画を届けているコムドットのやまと氏は、企業がクリエイターとコラボする際の広告制作のポイントとして「『誰が』をどれだけ知ろうとするか」が大切だと指摘しました。
「誰が訴求するか、誰が何を売るのかが大切な時代になってきているからこそ、『誰が』を、企業側がどれだけ知ろうとするかがカギになってくるのではないでしょうか。私がクリエイターとして企業の方と仕事をする時も、自分たちのことをすごく知ってくれて、好きになろうとしてくれていると、より良いクリエイティブができます。クリエイターの特性を理解することが、その視聴者たちを理解することにもつながっていると思います」
クリエイターとのコラボレーションの効果については、株式会社ADKマーケティング・ソリューションズの印南智史氏(クリエイティブディレクター)もコメントしました。
「YouTube 広告は(他の広告とは)特に動画尺の概念が変わってくると思います。(YouTube Creator Collaboration 部門の受賞作品は)15 秒や 30 秒を超えて、16 分以上のかなり長い広告でしたが、私は最初から最後までずっとストレスなく見続けらました。クリエイターとのコラボレーションという形で、ああいうクリエイティブができたことは非常に大きな発見です」
各部門の受賞作品に対する審査員の評価を以下の動画でまとめています。
- Breakthrough Advertiser 部門
- Best Brand Lift 部門
- Best Sales Lift 部門
- Best Target Reach 部門
- Action Driver 部門
- Creative Effectiveness 部門
- Force for Good 部門
- YouTube Creator Collaboration 部門
また、受賞作品を含めたファイナリスト全 49 作品の詳細は、以下の PDF から確認できます。キャンペーンの背景にある課題から、YouTube 広告を活用した狙いやそれを生かしたコミュニケーション戦略、実際の成果まで、広告設計やクリエイティブ制作に活用できる示唆が詰まっています。