8 社の動画広告に見るヒント──これからの広告制作の指針

石井 うさぎ / 2020年8月

政府や自治体の外出自粛要請に伴い、多くの産業で営業や広告も自粛が続いてきました。経済復興の要となる企業活動の再開については、業界ごとにまだまだ課題があります。また、生活者が支持するような広告メッセージについても模索が続いている状況です。

ポイントは一般的に「with コロナ」や「after コロナ」といった新たな文脈で語られる「ニューノーマル(新しい日常)」下で、新しい社会におけるクリエイティブをどうするか、ということです。

そこで今回は、緊急事態宣言が出てから解除まで(4 月 7 日から 5 月 25 日)の間、YouTube に出稿された「TrueView インストリーム広告」の事例を参考に考察します。

*記事中で紹介している動画は予告なく非公開になることがあります。あらかじめご了承ください。

企画から出稿まで 、3 密を避けたクリエイティビティ

「人と人のつながりを感じる」「勇気づけられる」──。緊急事態宣言後の自粛生活でもそういった広告が話題になりました。日々を前向きに過ごせるようなクリエイティブに接して、生活者は広告を見つめ直す機会にもなったのではないでしょうか。

ブランド側の広告制作においても大きな環境変化がありました。撮影や編集といった工程では、3 密をつくらない新しい環境が必要です。そのためこれまでのやり方から一新する必要がありますが、従来どおりのクオリティを保たなくてはいけないため、難易度が非常に高いものだったと言えるでしょう。

このような中でも、ブランドとクリエイターのクリエイティビティが発揮された広告があります。それらの特徴や伝えたいメッセージはどのようなものだったのでしょうか。

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まず紹介するのが大塚製薬「ポカリスエット」です。先が見えず多くの人々が苦しんでいる中で、とても元気をもらえるキャンペーンを展開しました。中高生 97 人による合唱は、それぞれの出演者が可能な限りリモート環境で自撮りした動画を組み合わせたもの。現在の環境ならではの制作プロセスとメッセージで、まさに走りながら考え、実現に向けて全力で進んだ結果と言えるでしょう。これまで数年間のキャンペーンコンセプトがブランドの体幹を作ってきたからこそ、実現できた動画だと感じます。この動画は、他社のブランドにも「こういった手がある」と気づかせ、後に続く勇気を与えたはずです。

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同様に、こうした環境下でもブランドとしてメッセージを発信し続けたのが P&G のヘアケアブランド「パンテーン」です。「あなたらしい髪の美しさを通して、すべての人の前向きな一歩をサポートする」をフィロソフィーとして掲げ、2018 年から「#HairWeGo」というというキャンペーンを展開しています(参考 :人の想いに寄り添い、動画で対話を生み出して社会問題に向き合う - P&G パンテーン)。ブランドとして中長期的に発信し続けるメッセージだからこそ、環境変化に応じた取り組みが大切であるという意志が伝わってきます。

クリエイティブの制作期間は企画から出稿までわずか 1 週間。緊急事態宣言を受けてということもありますが、驚くべきスピードでした。

「髪を変えるだけで、ほんの少し気持ちが前向きになるかもしれない。」という前向きなメッセージを含む表現が印象的。ブランドフィロソフィーに合った内容で、再生回数は約 900 万回と大きな話題を集めました。

パンテーンはこれまでも、自分らしい髪型での就職活動を応援する「#令和の就活ヘアをもっと自由に」、日本の学校の髪型校則に向き合う「#この髪どうしてダメですか」など、独自の視点をもって活動を続けてきました。

コロナ禍においても、ブランドならではの視点をもって制作された今回の広告が受け入れられたことから、継続的なマーケティング活動の重要性が見てとれます。

安心や新習慣を訴求、社員のモチベーション向上にも

人々の社会的活動は再開し始めていますが、再度の感染拡大も懸念です。社会がニューノーマルへの対応を求められる中で、生活者も新たな課題にぶつかるでしょう。今後、より選ばれるブランドになるためには、生活者が向き合う新たな課題の解決に、企業として力を注ぐ必要があります。

例えば自宅で過ごす時間が増えることで起こる、身体的、精神的な負担。また外出時の「ソーシャル・ディスタンシング」による身体的、物理的な距離を保つことの負担。そうした中で、企業やブランドのメッセージは、どのように受け入れられていくのでしょうか。

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自宅にいる時間が長くなったことで、デリバリー利用が増えています。ドミノ・ピザは、いち早く「ソーシャル・ディスタンシング」を確保したデリバリー方法をサービス化しました。安全、安心を訴える実直なブランド活動は、こういう時期にこそ重要になるでしょう。

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また自宅で過ごす時間が増えたことで、これまでできなかったことや考えてもみなかったことにも積極的にチャレンジする人々も増えています。

そこで生まれてくるのが新しい習慣。メディキュットは動画の冒頭 5 秒以内に「新習慣」として「簡単美脚ケア」をまず提案。その後に、商品特性とともに売り上げ No.1(*1)であることを伝えており、YouTube が推奨する効果的な動画広告クリエイティブの ABCD フレームワーク と共通する要素が盛り込まれています。

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西友は、生活者に向けて「ソーシャル・ディスタンシング」「オフピーク・ショッピング」を提案する動画広告を制作しました。この動画は、同時に社員のモチベーションアップにつながる「インナーブランディング」の役割も果たしています。

これまで日本の危機対策広告ではあまり見なかったアプローチとも言えます。食材を家庭に届けるラストワンマイルで重要な機能を果たす西友は、働く社員たちがいてこそ、生活者の役に立てると考えたのでしょう。ラストのロゴにも注目。しっかりとソーシャル・ディスタンシング仕様になっています。

変革したビジネスモデルをタイムリーに届ける

以前から多くの企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれるビジネスのデジタルシフトに取り組んできました。コロナ禍で生活者が外出を控えている今、ビジネスを止めないという点から、この DX がさまざまな業態で加速しています。

ビジネスモデルをデジタルで短期間に進化させ、生活者に新たな価値を提供しているブランドの事例を紹介します。

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マクドナルドでの持ち帰りに便利な、スマホでオーダーと会計ができる公式アプリを紹介する動画広告です。店舗滞在時間の短縮やレジでの支払いが不要になるなど、デジタルの力で便利さだけでなく安心・安全も提供しています。小売流通のデジタル化は、購入場所の選択肢を増やして利便性を上げるとともに、継続的な利用を促すことで価値の最大化に大きく役立つでしょう。

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在宅期間が長引く中で、積水ハウスはいち早く新たなソリューションでサービスを提供しています。家作りや住宅展示関連情報を、デジタルかつインタラクティブに取り込めると思っていなかった人も多いのではないでしょうか。動画終盤の視聴者プレゼントに VR スコープが含まれているなど、視聴する生活者のことを細やかに考えています。

生活者 1 人ひとりも企業も、2020 年は大きな環境変化への適応を求められました。そしてこれは、新たなサービスが生まれるきっかけにもなりました。そうした取り組みをきちんと顧客へ届けることで、状況に応じた価値提案が可能となるのです。

公共広告で危機下の行動を変える、若年層への影響が顕著

テレビ CM でも放映した AC ジャパンの公共広告。YouTube でも同様の広告素材を配信しました。

在宅期間が長引く中で、感染拡大を防止するための行動を喚起。やわらかいタッチで描かれたキャラクターと「前にいる人、横にいる人、みんな誰かの大切な人。」という当事者意識に訴えるコピーが印象的でした。

ユニークリーチは 790万人。広告想起と比較検討の 2 項目を KPI としたブランドリフトでは、広告想起が平均 9.6 ポイント上昇、45 歳〜 54 歳までの比較的高年齢層でも 8.2 ポイント上昇と、幅広い年齢層で有意な広告想起が確認できました。また比較検討の項目では「身体的距離の確保、マスクの着用、定期的に運動をする、朝食を食べる」の 4 つの選択肢を提示した中で、身体的距離について行動を改めると答えた人が 1.3 ポイント上昇しました。特に 25 歳〜 34 歳で 2.8 ポイント上昇するなど、仕事やプライベートで活発に活動する若年齢層の行動にも影響を与えたことがわかりました。

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環境の変化に合わせて、いち早く効果的な動画広告を制作するために

今回のような状況では、新たな条件へのスピーディな対応力や意思決定、危機下における最適なコンテンツ検討力など、スキルのアップデートも必要です。ここまで紹介してきたブランドの事例も、そうした新たな危機対応により、短期間で生活者の支持を集めることができました。

模索を続ける企業や広告会社の担当者を支援するツールとして、Google では多数の動画広告の分析を通してどのようなメッセージが効果的であるかをデータとともに解き明かして提供しており、具体的には以下のリソースやツールがあります。

スピーディーに動画広告を制作、配信したい際には、ぜひこれらのツールを活用してみてください。

※動画は予告なく非公開になることがあります。あらかじめご了承ください。

* 記事リリース後、2020/08/21 18:40 記事を更新、再掲載としております。

Contributor:
YouTube プロダクトマーケティングマネージャー 中村全信

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